「介護の日」週間ということで、エヌ・デーソフトウェア株式会社主催のイベント「介護の日記念セミナー2021」が11月に開催されました。イベントでは、福祉事業者へ向けた内容のセミナーを様々な講師陣がおこないました。
今回は「介護の日記念セミナー2021」にて、弊社がおこなったセミナーの内容を紹介していきたいと思います。
弊社セミナーのテーマは、「介護人材の採用及び定着に向けた人事施策強化」について。
介護・福祉業界希望者の転職動向、採用トレンドから見る「今後の介護施設に必要とされる取り組み」について話しました。
それでは、どのような内容だったのか詳しく見ていきましょう!
「介護人材の雇用動向」について
まずは、介護人材の雇用動向はどのような状況なのか、データと一緒に見ていきましょう。
有効求人倍率、採用率・離職率の推移
有効求人倍率
介護サービスの有効求人倍率は、全産業平均と比較して高い状況が続いています。しかしながら、2019年度に対して2021年度は3.5倍と緩やかに解消されてきている状況です。
採用率・離職率
採用率、離職率においては介護職員の採用率は全産業平均と同率、離職率は下回っています。この結果から、介護職員の労働環境の改善が進んできているということが分かります。
過不足状況、不足理由
介護サービスに従事する従業員の過不足状況は、38.6%で「適当」が最も高くなっています。
しかし、その他の項目を見てみると「大いに不足」8.6%「不足」20.5%「やや不足」31.7%と不足に関する項目は全体の60.8%を占め、介護職が不足している状況が分かります。
不足理由
介護職員が不足している理由については「採用が困難である」が86.6%で最も高く、次いで「離職率が高い」が18.2%を占めています。このことから、各事業所において採用活動が課題であるといえます。
採用困難理由
採用が困難である理由として最も多かったのは「他産業に比べ労働条件がよくない」が53.7%、次いで「同業他社との人材獲得競争が激しい」が53.1%と、ほぼ同率となっています。
また、介護サービスにおける新規求職者申込数、就職件数を見てみると、年々減少傾向にあることが分かります。
今後も採用活動にマイナスな影響を与える「他業界への流出」や「同業他社との人材獲得競争」といった状況が続く可能性があり、今まで以上に採用活動は厳しくなることが推測されます。
「介護人材の転職市場動向」について
次に、介護人材の転職市場の動向はどのような状況なのか見ていきましょう。
採用経路と応募経路
採用経路
法人側の採用経路として最も多いのは「ハローワーク」で、次に「知人等からの紹介」「民間の職業紹介」「広告」と並びます。従来の採用経路が主流となっています。
応募経路
一方で、求職者側の応募経路として最も多いのは「ハローワーク」次いで「SNS」「知人等からの紹介」と、近年変化を見せています。とくに、若年者層の「SNS」を利用して転職する求職者が大きく増加している状況です。
経路別利用者数・就職件数
経路別利用者数
採用経路として多かった「ハローワーク」「知人等からの紹介」「民間の職業紹介」の利用者数を調べてみると、「ハローワーク」は「新規求職申込」「就職件数」「若年者層」ともに緩やかに減少が続いています。「知人等からの紹介」は横ばい傾向、「民間の職業紹介」は増加傾向にあります。
次に「広告媒体」「福祉人材センター」の利用者数を調べてみると、「広告媒体」はその年によって高低差はありますが、過去と比較すると増加傾向にあります。一方で「福祉人材センター」経由の就職数は減少傾向となっています。
また法人側の採用経路にはなく、求職者側の応募経路では2番目に多かった「SNS」の利用者数は、年々増加している状況で今後も応募経路の増加が予想されます。
現在の転職市場は、法人側と求職者側とで利用している経路にやや変化が見られます。今後予測される人材獲得競争のために、自社内で転職市場の変化に合わせた「採用活動の見直し」が必要となってきている状況といえます。
転職市場の変化から見た「必要な採用戦略」3つ!
介護人材の雇用動向、転職市場動向から、今の採用活動に必要な戦略を3つ紹介したいと思います。
ソーシャルリクルーティング
ソーシャルリクルーティングは、FacebookやTwitter、InstagramなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を活用した採用方法のことを言います。
自社が必要とするターゲットに向けてソーシャルメディアを用いてアプローチする方法です。
メリット・デメリット
ソーシャルリクルーティングを用いるメリットとデメリットは以下。
◇メリット
・採用コストを抑えられる
・幅広い層(特に採用難な若手層)へアプローチできる
・拡散力が高い
・採用ブランディングにつなげやすい
◆デメリット
・ネットリテラシーが必須
・コンテンツを作る時間と手間
・支持層がいないと効果が薄い
※ネットリテラシー:インターネット・リテラシーを短縮した言葉。インターネットの情報や事象を正しく理解し、それを適切に判断、運用できる能力を意味する。
インターネットの利用人口・利用時間の増加に伴い、SNSのユーザー数・閲覧時間も年々増加しています。人材の獲得競争が激化している現代において、SNSによる採用活動を導入することは大きなメリットがあるといえます。
SNSの運用が少ない理由と解消法
SNSを用いた採用活動は「攻め」と「待ち」の両面で優れています。積極的に求職者にアプローチすることも、投稿に興味を持った求職者からのアクションを待つことも可能です。
しかしながら、上記表のように採用経路としてSNSを運用している法人は少ないのが事実です。
なぜメリットがあるSNSの運用をしないのでしょうか?その理由について見ていきましょう。
SNSが運用されない主な理由としては、
興味はあるが何から始めたら良いかわからない
どの媒体を活用したら良いかわからない
どのように運用すれば良いかわからない
といったことが挙げられます。
SNSに対しての苦手意識やネットリテラシーなどの知識不足が起因している事がほとんどです。
SNS運用は各社の知名度や事業内容、環境によって戦略が異なるため「これをやれば必ず成功する」という方法はありません。まずは、以下のように運用に向けて問題を解消していきましょう。
■ 興味があるが何から始めたら良いかわからない
➡使用する目的(「まずは認知の拡大をする」「認知は十分だから人材の獲得を狙う」等)を決め、ターゲットが使用している可能性の高い特徴を持つSNSを選定する。
■ どの媒体を活用したら良いかわからない
➡媒体別に利用者の特徴、アプローチ、ターゲティング精度が異なる。
Twitter :新卒採用(就活生の利用が多い)
Instagram:若年者層向けの中途採用(20代の利用者数が多い)
LINE :ターゲットが幅広い場合(全世代の利用率が高い)
Facebook:ターゲットがピンポイントの場合(精度の高いターゲティングが可能)
■ どのように運用すれば良いかわからない
➡SNS運用担当者の選定、運用に関するマニュアル・ガイドライン、投稿スケジュールの作成、ターゲットに最適なコンテンツ作成の方針の選定をする。
SNS運用成功確率を上げるには「地道な取り組みを続けること」「自社に合った戦略・運用方法を見つけること」が重要となります。
ソーシャルリクルーティングは、とくに今後のメインターゲット層である「Z世代」の採用において有効な方法であるため、積極的に取り入れていくべき採用手法です。
リファラル採用
リファラル採用とは、自社の社員に人材を紹介してもらう採用手法のことです。
「社員を通じて人材を紹介・推薦してもらう」→「選考」→「採用する」
というように、人が人を呼ぶ仕組みを作ります。
採用経路が多角化するなか、採用手法として一般的となっており、全体の60%以上がリファラル採用を取り入れています。
リファラル採用のメリット・デメリット
リファラル採用を用いるメリットとデメリットは以下。
◇メリット
・採用コストを大幅に削減できる
・マッチング精度の向上
・早期離職のリスク低減
・採用市場に出てきていない人材と接点を持つチャンスがある
◆デメリット
・社員と候補者の関係性に配慮が必要
・社員の認識不足によるミスマッチ
・人材の同質化(多様性の妨げになる)
リファラル採用を適切に実行する事で、採用活動において長期的なメリットが大きいといえます。
リファラル採用を上手く運用するには
リファラル採用を上手く運用するには、魅力的な制度を設けるだけでは上手くいきません。
「運用課題を解決する」そして「浸透施策を継続的に実施する」事が、リファラル経由での採用数増加に繋がります。
リファラル採用が上手く運用されている法人は、全体の40%、実際に制度化している法人は全体の33%に留まっています。
主な失敗要因は、
- 社員の心理的負荷が大きい
- リファラル採用活動の認知度の低さ
- 社員のエンゲージメントが低い
といった社内体制、社員が協力するにあたっての仕組み作りが不十分である事がほとんどです。
社員の心理的負荷が大きい
➡「紹介した人が不合格になったら気まずい」「転職を勧めることに責任が持てない」とマイナスの心理が働く。転職意思は完全不問とし、入口はあくまで「キャリア面談」にする事で心理的なハードルを下げる。
リファラル採用活動の認知度の低さ
➡最初に発信した後「全然紹介がこない、ダメだ」と判断し発信頻度が少なくなった結果、社員側は「リファラル採用を実施しているかわからないから、やめておこう」となる。
社内メルマガ、社内報、SNSページでの広報など、社員に対して社員紹介の実行状況や取り組みを共有する。
社員のエンゲージメントが低い
➡「自社に紹介したいと思えていない」と社員が考えている場合、協力率が上がらない。従業員エンゲージメントツールなどを使用し、ロイヤルティ(職場に対する愛着・信頼の度合い)の数値が高い社員や、部署を巻き込み社内ブランディングを実施する。
リファラル採用を成功させる秘訣は「社内全体を巻き込む体制構築」です。
社員の協力がドライバーであり、採用に協力したいと思える仕組み作りが重要となります。
民間の職業紹介
民間の職業紹介とは、企業から求人の依頼を受け求人内容に合った人材を紹介する有料サービスを行う「職業紹介事業者」を利用する採用手法のことです。
専任担当者が求職者と企業を仲介し、採用活動に関わる様々な業務を代行することで、効率的に採用することが可能になります。
インターネットによる転職活動が主流となるなかで、職業紹介事業者はWeb広告を主体とした母集団形成により、豊富な人材DBを持っているため、ニーズに合った人材をピンポイントで採用できます。
民間職業紹介のメリット・デメリット
民間職業紹介を用いるメリットとデメリットは以下。
◇メリット
・初期費用がかからない
・採用要件を満たした母集団から選考できる
・求人募集までのリードタイムが短い
・採用担当者の工数を抑えられる
・非公開求人の募集が可能
・専任担当者が応募を促進
◆デメリット
・採用人数分の紹介手数料が発生する
・採用要件や募集地域によっては希望する人材がいないことがある
民間の職業紹介は一般的に成果報酬型が多く、入職に至る迄のコストは発生しないため、採用活動において人員状況に応じて使い分けられるなど、メリットが大きい。
紹介事業者選びを失敗しないためには
紹介事業者選びを失敗しないためには、どのような点を意識したらよいのかについて見ていきましょう。
次の表は、有料職業紹介事業所の数を表したものです。
上記表を見てわかるように、民間の職業紹介事業所数は年々増加傾向にあります。
そのため、どの紹介会社を選べばよいかの迷うことも多いはず。
紹介会社選びを失敗しないためには、利用目的を明確にして自社の採用戦略に適した紹介会社の見極めが必要です。
一口に紹介会社といっても「専門特化型」「登録型」「サーチ型」「分業型」「一気通貫型」「全国型」「地域密着型」と、サービススタイルは多岐に渡り、自社に合った人材事業者の見極めが難しくなってきています。
よくあるケースとしては
といった、紹介サービスを活用しきれていない場合がほとんどです。
紹介サービスを利用し採用を成功させる秘訣は、数多くの事業者の中から自社に合う「適切な紹介事業者を選定すること」そして、採用活動において「人材会社を上手く巻き込み採用活動を効率化する」ということが重要です。
適切な紹介事業者を選ぶための基準
法人が職業紹介サービスを利用する理由は次の通り。
理由の多くは、人材確保への期待でした。つまり、職業紹介サービスの利用にメリットを感じているということです。
期待外れとならないように、サービス利用のメリットを発揮させるには、事前の情報収集が重要となってきます。
事前に情報収集をするためには、いくつかの基準を設けておく必要があります。
自社に適切な紹介事業者を選ぶための基準は以下の3つ。
紹介会社を選ぶ際には、多数ある事業者から上記の基準をクリアしている事業者であるかを確認しておきましょう。
基準を確認する際は、厚生労働省が運営する「人材サービス総合サイト」を利用してみてください。人材サービス総合サイトでは、都道府県や区分、優良事業者など条件を絞って検索でき「取り扱い職種」「紹介実績」「離職者数」「手数料」「返戻金制度」などを確認することが可能です。
最近は、職業紹介事業所において情報開示が進んでいるため「高い精度で判断する事が可能」となっています。
◎「人材サービス総合サイト」
転職市場の変化から見た「必要な施策とは?」
人材獲得競争を勝ち抜くためには、戦略を立て積極的に採用活動することが大事です。しかし、それだけでは人材確保につながりにくく、内定承諾率は上がりません。
内定承諾率を上げるには、面接~内定までの期間に「どのように応募者と接したか」がとても重要になってきます。
なぜなら、採用プロセスで応募者が感じ取った企業の評価は内定承諾率と直結しているからです。企業と求職者は対等な関係であることを心に留め、応募者に対しての態度や言葉遣いなど、細心の注意を払って応募者と接する事を心掛けることが必要です。
面接前の事前準備
まずは、面接前の事前準備から確認していきましょう。
- 選考スケジュールの確認
例:選考期間の早期化
※応募~内定迄の所要期間と内定承諾率は比例する確率が高い
- クロージングの工夫
例:社員面談の実施
※社員面談の実施によって承諾率は増加する傾向がある
- 会社全体で「おもてなし」の意識を持つ
例:見学時の職員の挨拶
※職場の雰囲気は「職員の対応」と捉えている応募者が多い。
- 採用スキームの改善
例:面接マニュアル整備・内定後フォロー施策整備など
※内定後フォローの実施有無によって辞退率は大きく変動する。
次に確認しておいてほしいのは、求職者が面接でどのようなことに不安を感じ、入社を見合わせようという思いに繋がるのかということです。
「面接時の対応で不安になった」「入社を見合わせようと思った」ということはないか、自社アンケートを取ってみたところ以下のような回答がありました。
上記の回答結果を見て、思い当たる点がある場合は改善するようにしていきましょう
面接内容
内定承諾率を上げるには、応募者に魅力的な企業だと評価してもらわなければなりません。
そのためには、面接内容を工夫するなどの対策が必要です。
面接の対策例
上記にあるように、面接では応募者に喜ばれる配慮を心掛けることが大切です。しかしながら、どのように配慮すれば喜ばれるのか分からないという方も少なくないはず。
そこで「面接時に言われて嬉しかったこと」について自社アンケートを取ってみました。
アンケートの回答で最も多かったのは「丁寧な施設説明をしてい頂けた」という回答、次いで「条件面についての詳細をお話しして頂けた」「福利厚生についての説明があった」がほぼ同率の回答でした。
応募者からは聞きづらい「条件面」や「福利厚生」などを企業側から説明することで、良いイメージを持ってもらいやすくなります。
オンライン面接の対策
新型コロナウィルスの感染拡大によって、オンライン面接は主流となりつつあります。
オンライン面接は、対面面接とは違うコミュニケーションが求められるため、十分な対策・工夫が必要となり対応に苦慮するケースが多いですが、正しく活用できれば採用効率は向上します。
新型コロナウィルスの感染拡大が収束した後、従来の対面面接に戻す企業も一定数あることは予測されます。
しかし、オンライン面接に慣れた応募者の増加により、引き続きオンライン面接は採用手法として主流になるため、オンラインならではの特性を十分に理解した対応が求められます。
オンライン面接の対策例
内定承諾率が高い法人の事例
内定承諾率を上げる秘訣は、自社の魅力を伝えることだけではなく
「面接を面接の場で終わらせない」
「選考過程におけるモチベーション管理」
がとても大切です。
ここで、内定承諾率が高い法人の応募者コメントをいくつか紹介したいと思います。ぜひ参考にしてみてください。
応募者コメント抜粋
施設見学からスタートし、面接担当の方が職員と繋いでくれたり和やかな雰囲気でスタートしてくれた。面接時も見学の話を踏まえ進めて頂き安心して面接に臨むことが出来た。
先に副施設長に見学を案内して頂きました。その際面接担当である施設長の人柄や面接対策について話して頂いた。見学後に面接室に案内してくれた際には「頑張って!」と励まして頂き自信を持つことが出来た。
施設長・面接担当が二人とも出迎えてくれて、最初の挨拶の時に「お待ちしておりました!今日は来てくれて本当に嬉しいです!」と非常に歓迎ムードでした。その後の面接の際の自己紹介時にも『あなたのような方を待っていた。』等、嬉しい言葉を頂き、面接が終わる頃には志望度が大きく上がっていた。
内定受諾後、入職予定者に『レクリエーションを見に来ませんか?』というご連絡を頂き参加させて頂いた。職員の方とコミュニケーションがとれて入社前の不安が解消された。
まとめ
介護人材の転職市場において介護人材の転職トレンドはIT技術の進化により、大きく変化しつつある。
採用経路の多角化により従来のやり方のみでは、今後予測される人材獲得競争の激化で優位性を発揮できない。
自社のターゲット像を明確にし、多数ある採用経路で自社要件を満たす採用経路に対して選択と集中が必要となる。
採用プロセス改善のため、紹介会社を含め外部リソースを活用しPDCAを加速させる必要がある。
内定承諾率と採用プロセスの精度は相関性があると捉え、会社全体で採用活動に取り組む姿勢が必要となる。
入社後まで踏まえ「入社へ導く」だけでなく、「理想的なエンゲージメント状態で入社へ導く」ことが重要となる。
介護業界は、人材獲得競争が激化し「採用」が非常に難しい市場に変化しています。
また、複数の企業を受けることが主流であるなかで、いかに自社へ入社してもらうかは大きな課題といえます。
他社との採用競争を勝ち抜き、自社優位性を発揮するためにも従来の取り組みを改善し、新たな取り組みを積極的に行うことが必要不可欠です。