介護業界への就職を考えているけれど、さまざまな課題を抱えているように見えて今一歩踏み出せないと悩んでいる人はいませんか?
この記事では介護業界が働く場として抱える課題からその解決策、それを踏まえて介護業界で働いた方がよいのはどのような人かを解説します。
介護業界が働く場として抱える課題
介護業界が働く場として抱える課題を、解決に近づいている課題と解決がまだ難しい課題の2つにわけてご紹介します。
解決に近づいている課題
介護業界が働く場として抱える課題の中で、解決に近づいている課題は次の3つです。
年収
2022年に厚生労働省が発表した令和4年賃金構造基本統計調査によると、一般労働者の平均年収は311万8千円でした。
一方2021年に公益財団法人介護労働安定センターが発表した令和3年度介護労働実態調査の結果によると、月給で勤続年数2年以上の人の平均年収は次のような結果でした。
職種 | 平均年収 |
訪問介護員 | 324万3,882円 |
介護職員 | 345万7,919円 |
サービス提供責任者 | 389万9,562円 |
生活相談員 | 382万3,607円 |
看護職員 | 427万7,122円 |
介護支援専門員 | 391万2,746円 |
全体 | 365万9,292円 |
離職率
2021年に厚生労働省が発表した令和3年雇用動向調査の結果によると、一般労働者の離職率は11.1%でした。
一方2021年に公益財団法人介護労働安定センターが発表した、令和3年度介護労働実態調査の結果によると、1年間の離職率は次のような結果だったのです。
職種 | 雇用形態 | 離職率 |
訪問介護員 | 無期雇用職員 | 13.9% |
| 有期雇用職員 | 12.9% |
サービス提供責任者 | 無期雇用職員 | 10.0% |
| 有期雇用職員 | 10.8% |
介護職員 | 無期雇用職員 | 13.6% |
| 有期雇用職員 | 17.3% |
3職種全体 | ー | 14.1% |
一般労働者と介護業界の3つの職種における平均離職率を比較すると、介護業界の3つの職種における平均離職率の方が3%高くなっていますが、それほど大きな差とは言えないでしょう。
介護労働実態調査で、早期離職防止や定着促進のためにどのような方策を取っているかをたずねたところ次のような結果でした。
早期離職防止や定着促進のための方策 | 割合 |
本人の希望に応じた勤務体制にする等の労働条件の改善に取り組んでいる | 66.6% |
残業を少なくする、有給休暇を取りやすくする等の労働条件の改善に取り組んでいる | 62.1% |
職場上の仕事上のコミュニケーションの円滑化を図っている | 51.3% |
能力や仕事ぶりを評価し、賃金などの処遇に反映している | 36.8% |
業務改善や効率化等による働きやすい職場作りに力を入れている | 35.1% |
働き方改革
2019年4月から始まった働き方改革ですが、介護業界でも少しずつ取り組みが進められています。
具体的には福祉機器、ICT機器、介護ロボットの活用で仕事の効率化を進めているのです。
2021年に公益財団法人介護労働安定センターが発表した令和3年度介護労働実態調査で、介護ロボットの導入についてたずねたところ次のような結果でした。
介護ロボットの導入 | 割合 |
見守り・コミュニケーション(施設型) | 2.8% |
移乗介助(装着型) | 1.6% |
介護業務支援 | 1.6% |
入浴支援 | 1.3% |
移乗介助(非装着型) | 0.8% |
解決がまだ難しい課題
介護業界において解決するのがまだ難しい課題を3つご紹介します。
高齢者虐待
2021年に厚生労働省が発表した「令和3年度『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』に基づく対応状況等に関する調査結果」では次のような調査結果が出ました。
| 2006年度 | 2013年度 | 2021年度 |
相談・通報件数 | 273件 | 962件 | 2,390件 |
虐待判断件数 | 54件 | 221件 | 739件 |
人手不足
厚生労働省職業情報提供サイトJobtagが公表している、介護業界における職種別の2021年の有効求人倍率は次の通りです。
職種 | 2021年の有効求人倍率 |
介護支援専門員 | 4.18倍 |
施設介護員 | 3.05倍 |
訪問介護員 | 12.57倍 |
老人福祉施設生活相談員 | 3.6倍 |
DX推進
2022年、トライトグループが10代~60代の男女介護従事者303名を対象に行った「介護事業所におけるDX実態調査」で、職場においてDXが進んでいる分野について聞いたところ、次のような結果が出ました。
DXが進んでいる分野 | 割合 |
介護記録業務 | 51.8% |
介護報酬請求業務 | 41.1% |
身体介護業務 | 34.5% |
人事業務 | 28.0% |
その他、施設利用者の支援業務 | 27.4% |
DXに取り組んではいるものの、まだ完全に介護業界に浸透してはいないのが現状だと言えるでしょう。
一方DXを進める上で課題と感じることについてたずねると、次のような結果が出たのです。
DXを進める上で課題と感じること | 割合 |
知識・ノウハウがない | 43.2% |
予算がない | 40.3% |
費用対効果が低い・わかりにくい | 31.7% |
人的リソースがない | 23.8% |
適したサービスがない | 13.2% |
介護業界の課題を踏まえた今後の動向
介護業界の課題を踏まえた今後の動向を、市場規模と未来予測の2つの観点からご紹介します。
介護業界の市場規模
2022年に日本経済新聞社が発表した「サービス業調査」によると、2021年の有料老人ホームの売上高は前年比2.6%、在宅福祉サービスの売上高は5.9%増加し、介護サービスへのニーズが増加しているのがわかります。また厚生労働省によると2021年度の介護費用は11兆29億円で過去最多となりました。これらのことから日本の高齢化に伴い、介護業界の市場規模はさらに大きくなることが予想されます。参考:日経コンパス「老人ホーム・介護サービスの業界概要」 介護業界の未来予測
博報堂生活生活総合研究所のホームページでは介護に関する未来年表が公表されているため、その中から10年後、20年後、30年後の介護業界で起こると予想されている内容をご紹介します。
10年後の介護業界
未来年表では2035年に、日本の介護技術をアジアに輸出する「アジア健康構想」が実現すると予想しています。アジア健康構想では、日本で介護を学ぶアジアの人材を増やすとともに、日本の介護事業者のアジアへの展開や、相手の国が自らおこす介護事業を支援することで、日本で学んだ人材の雇用創出やアジア全体での人材育成や産業振興を好循環させるのを目指します。現在アジア健康構想の実現のために行っている取り組みは次の5つです。・アジアに紹介する「日本的介護」の整理・人材還流、教育関連の整理・介護事業者の海外展開支援に関するワーキンググループを設置・ASEANやAPECなど、外交機会におけるアジア諸国への対外発信・高齢化関連シンポジウムの開催など実現すれば日本とアジアで質の高い介護人材が行き来するだけではなく、ICTや介護ロボットの技術も広まりアジアの高齢者のQOL(生活の質)を上げることができるでしょう。参考:内閣官房健康・医療戦略室「『アジア健康構想』について」 20年後の介護業界
2023年5月現在、ドクターメイトがお役立ち資料ダウンロードのページで公開している「2023最新データで徹底解説 介護業界×人材確保未来予想図」では、2040年には国民の3人に1人が高齢者になると予想しています。2040年には第2次ベビーブーム時代に生まれた「団塊ジュニア世代」が全員65歳以上の高齢者となる時期に重なるためです。社会インフラを支える労働者世代が減少することで、介護業界も含めて人材不足となります。また納税額は減りますが、国の社会保障費は加速度的に増加するでしょう。参考:ドクターメイト「2023最新データで徹底解説 介護業界×人材確保未来予測図」 30年後の介護業界
介護業界で今後働いた方がよい人とは?
介護業界で今後働いた方がよいのはどのような人でしょうか。
3つご紹介します。
介護業界の課題解決に取り組みたい人
介護業界で解決がまだ難しい課題はたくさんありますが、これらの課題に果敢に取り組み、解決へ導きたい人は介護業界で仕事をするのが望ましいでしょう。
また未来年表で予想されている課題の解決に力を注ぎたい人も、早いうちから介護業界でさまざまな経験を積んでおくことをおすすめします。
新しい技術の導入に抵抗がない人
介護業界では働き方改革やDX推進のため、今後多岐に渡る新技術が導入されていくと予想されます。
今までの介護のやり方にとらわれすぎず、柔軟に新しい技術を使いこなして介護に取り組みたい人は、介護業界で仕事をするのがよいでしょう。
日本の介護を海外展開したい人
日本の介護技術をアジアに輸出する「アジア健康構想」を実現し、アジアに住む高齢者の皆さんに日本の介護の良さを広く知ってほしいと考える人は、介護業界で働くことをおすすめします。
日本的介護とICTや介護ロボットを柔軟に組み合わせることで、アジア全体の高齢者のQOLが向上するでしょう。
まとめ
介護業界が働く場として抱える課題は、解決に近づいているものも解決にまだ時間がかかるものもありますが、未来を予測し働き方改革やDXを推進することで少しずつ改善が進むでしょう。介護業界での課題解決に力を発揮したい人は、ぜひ介護業界へと足を踏み入れてみてください。※掲載情報は公開日あるいは2023年08月31日時点のものです。制度・法の改定や改正などにより最新のものでない可能性があります。