訪問介護の仕事に就き、仕事にも慣れてきて楽しく続けているけれど正直あまり稼げているとは言えないため、将来を不安に感じている人はいませんか?
この記事では、訪問介護で給料を上げる方法から仕事の将来性まで詳しく解説します。
訪問介護の給料とは?
訪問介護の給料について、公益財団方針介護労働安定センターが行った「介護労働実態調査」によると、訪問介護に携わる訪問介護員とサービス提供責任者の月給、日給、時給の平均額と支払い形態の割合は次のような結果でした。
| 2021年 | 2022年 |
支払い形態 | 月給 | 日給 | 時給 | 月給 | 日給 | 時給 |
訪問介護員 | 224,126円 (35.4 %) | 11,239 円 (1.9%) | 1,319 円 (57.1%) | 237,283円 (34.5%) | 12,464円 (1.5%) | 1,407円 (56.6%) |
サービス提供責任者 | 259,904円 (86.5%) | 9,224円 (0.5%) | 1,221円 (4.2%) | 272,421円 (84.7%) | 8,167円 (0.3%) | 1,352円 (3.8%) |
※()内は各支払い形態の割合
訪問介護員は給料の支払い形態が時給の人、サービス提供責任者は月給の人が一番多いのが特徴的と言えるでしょう。
しかし今まで訪問介護員への給料の支払いについては、労働法を守っていない場合も多く見受けられたため、2021年3月に厚生労働省では「介護保険最新情報Vol.912」の中で、訪問介護員の移動時間などの取扱いについて次のように呼びかけを行いました。
項目 | 概要 |
労働基準法上の取扱い | ・移動時間や待機時間が労働時間に当たる場合は、その時間に対し賃金を支払う必要がある ・利用者のスケジュール変更などにより休業となった場合は、休業手当を支払う必要がある ・賃金変更をする場合は労働者本人の合意を必要とする |
介護報酬上の取扱い | ・事業者に支払われる訪問介護の介護報酬には人件費が含まれているため、事業者は労働者に適切な賃金を支払わなければならない |
訪問介護の給料の現状
訪問介護の給料の現状について、もう少し詳しく見ていきましょう。
訪問介護における給料の引き上げ・引き下げの現状
2022年に厚生労働省が発表した「令和4年度介護従事者処遇状況等調査」で、902件の訪問介護事業所を対象に給料の引き上げ・引き下げの状況についてたずねた所、次のような結果でした。
| 給与などを引き上げた | 2022年1月末時点の給与水準を維持しているが、今後1年 以内に引き上げる予定 | 2022年1月末時点の給与水準を維持しており、今後1年以内に引き上げる予定はなし | 給与などを引き下げた | その他 |
訪問介護事業所 | 74.8% | 8.7% | 12.3% | 0.4% | 2.1% |
給料を引き上げた訪問介護事業所が70%を超えている一方で、現状維持や、逆に引き下げた事業所も20%程度あるのがわかります。
このことから、訪問介護事業所で働く人は自分の事業所が今まで給料を引き上げた実績があるのか、どのような条件で給料を引き上げているのかを知っておく必要があるでしょう。
給料の引き上げの実施方法
「令和4年度介護従事者処遇状況等調査」で756件の訪問介護事業所を対象に、給料の引き上げ方法についてたずねた所、次のような結果が出ました。
| 給与表(賃金表など)を改定して 賃金水準を引き上げた(予定) | 定期昇給(毎年一定の時期に施設の昇給制度に 従って行われる昇給)を実施(予定) | 各種手当の引き上げまたは新設 (予定) | 賞与などの支給金額の引き上げまたは新設(予定) | その他 |
訪問介護事業所 | 26.1% | 38.1% | 74.4% | 16.8% | 1.7% |
今までの制度における定期昇給をする訪問介護事業所が40%程度ですが、新しく給与表を改定したり、各種手当を新設したりする事業所もあったため、最新の給与制度の内容を理解しておくのが重要だと言えるでしょう。
給料の引き上げを行わなかった理由
「令和4年度介護従事者処遇状況等調査」で114件の訪問介護事業所を対象に、給与などの引き上げを行わなかった理由についてたずねた所、次のような結果でした。
給与などの引き上げを行わなかった理由 | 割合 |
2022年1月末までに給与などを引き上げているため | 14.5% |
人員配置を厚くして職員の業務負担軽減を図ることを優先したため | 19.2% |
現在の給与水準が他の施設・事業所と比べ高いため | 16.7% |
経営が安定しないため | 48.9% |
増収分を借入金の返済に充てたため | 1.0% |
介護報酬の収入が減少したため | 41.5% |
支出が収入を上回ったため | 18.2% |
新型コロナウイルス感染症対策を優先したため | 4.6% |
その他 | 8.1% |
「介護報酬の収入が減少した」「経営が安定しない」という理由を挙げている訪問事業所であるかどうかは、利用者が目に見えて減少したり、厳しいコスト削減を強いられたりと、比較的従業員にもわかりやすい可能性があります。そのためもし給料が上がる気配がなく、利用者が減少し続けているなら今後その事業所で働くかどうかを考える必要があるでしょう。参考:厚生労働省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」 訪問介護で給料を上げる方法
訪問介護で給料を上げるには、どのような方法があるのでしょうか。
3つご紹介します。
同じ事業所で長く勤務する
2022年に厚生労働省が発表した「令和4年度介護従事者処遇状況等調査」で、訪問介護事業所164件を対象に給与などの引き上げ条件についてたずねた所、次のような結果でした。
給与などの引き上げ要件 | 割合 |
勤続年数を要件として引き上げ | 25.7% |
経験年数を要件として引き上げ | 17.7% |
資格の保有を要件として引き上げ | 24.9% |
サービス提供責任者を要件として引き上げ | 14.6% |
主任介護支援専門員を要件として引き上げ | 1.3% |
勤務形態(常勤・非常勤)を要件として引 き上げ | 25.4% |
雇用形態 (正規・非正規)を要件として引 き上げ | 22.1% |
勤務時間を要件として引き上げ | 17.2% |
管理職について引き上げ(ユニットリー ダーを除く) | 6.9% |
管理職以外の者について引き上げ | 6.0% |
人事評価に基づいて引き上げ | 34.9% |
要件にかかわらず引き上げ | 4.8% |
その他 | 14.9% |
勤続年数、経験年数を引き上げ要件としている事業所が43.4%を占めるため、給料を上げたいならまずは同じ事業所で長く働く必要があるでしょう。
また人事評価に基づいて引き上げをしている事業所も34.9%を占めるため、あらかじめ人事評価における昇給の条件を確認してから、長く働き続ける中でその条件を満たしていくのが望ましいと言えます。
資格を取得する
「令和4年度介護従事者処遇状況等調査」では給与などの引き上げ要件について、「サービス提供責任者」「主任介護支援専門員」を挙げた訪問介護事業所が15.9%ありました。このことから訪問介護で給料を上げたいなら、上記2つの要件のうちの1つ、または両方を満たす必要があるのです。厚生労働省告示第百十八号の「厚生労働大臣が定めるサービス提供責任者」では、2019年4月よりサービス提供責任者になるには、次の3つの条件のうちどれかを満たすように定めています。・介護福祉士の資格を取得した人・改正前の介護保険法施行規則に基づいた介護職員基礎研修課程または1級課程を修了した人・障害福祉サービスにおける共生型訪問介護のサービス提供責任者そのためまずは介護福祉士の資格を取得するのが望ましいでしょう。一方主任介護支援専門員になるには、介護⽀援専⾨員更新研修を修了した後次の4つの条件を満たす必要があります。・専任の介護⽀援専⾨員として働いた期間が通算で5年(60ヶ⽉)以上の人・ケアマネジメントリーダー養成研修修了者か、⽇本ケアマネジメント学会が認定する認定ケアマネジャーで、専任の介護⽀援専⾨員として働いた期間が通算で3年(36ヶ⽉)以上の人・主任介護⽀援専⾨員に準ずる者として、地域包括⽀援センターに配属されている人・その他、介護⽀援専⾨員の業務に関し⼗分な知識と経験があり、都道府県が適当と認める人すでに介護支援専門員の資格を取得しているなら、主任介護支援専門員の資格取得を目指すのもよいでしょう。参考:厚生労働省告示第百十八号「厚生労働大臣が定めるサービス提供責任者」 介護保険の改正を待つ
同じ事業所で勤務し、資格を取得している間に介護保険における介護報酬の改正を待つというのも1つの方法です。
「令和4年度介護従事者処遇状況等調査」で、訪問介護事業所756件を対象に給与などの引き上げの理由についてたずねた所、次のような結果でした。
給与などの引き上げの理由 | 割合 |
介護職員処遇改善加算(介護職員等特定処遇改善加算を除く)を踏まえて給与などを引き上げた(予定) | 29.9% |
介護職員等特定処遇改善加算を踏まえて給与などを引き上げた(予定) | 15.3% |
介護職員処遇改善支援補助金を踏まえて給与などを引き上げた(予定) | 49.9% |
介護職員等ベースアップ等支援加算を踏まえて給与などを引き上げた(予定) | 64.8% |
加算や補助金に関わらず給与などを引き上げた(予定) | 18.6% |
これは介護職員の処遇改善のため国が介護報酬の改定を行い、介護職員処遇改善加算、介護職員等特定処遇改善加算、介護職員等ベースアップ等支援加算を各事業所に請求するよう求めたため、給料の引き上げにつながったものです。2022年10月には介護職員処遇改善加算は93.8%、介護職員等特定処遇改善加算は75.9%、介護職員等ベースアップ等支援加算は85.4%という高い請求率を記録しました。これらのことから訪問介護事業所で仕事をする人は、国の施策として介護職員の処遇が今後どのように変化していくのかに関心を持ち、定期的に情報収集をしておくのが望ましいでしょう。参考:厚生労働省「令和4年度介護従事者処遇状況等調査結果」参考:厚生労働省「介護職員の処遇改善」 訪問介護の仕事の将来性
訪問介護の仕事に将来性はあるのでしょうか。
3つの観点から考えてみましょう。
国が介護職員の働く環境を改善しようとしている
国では介護職員の給料だけではなく、働く環境を改善しようとしています。
例えば、訪問介護事業所において給料だけが良くなっても、働く環境が良くなければ長く働き続けることは難しいためです。
厚生労働省では「介護職員の働く環境改善に向けた制作パッケージ」を作って、持続的な介護職員の待遇改善に取り組んでいます。
「介護職員の働く環境改善に向けた制作パッケージ」では具体策として、次のような内容が提唱されています。
具体策の項目 | 概要 |
総合的・横断的な支援の実施 | ・介護現場革新のワンストップ窓口の設置 ・介護ロボットやICT機器の導入支援 |
事業者の意識変革 | ・優良事業者、職員の表彰などを通じた好事例の普及促進 ・介護サービス事業者の経営の見える化 |
テクノロジーの導入促進と業務効率化 | ・福祉用具、在宅介護におけるテクノロジーの導入や活用の促進 ・生産性向上に向けた処遇改善加算の見直し ・職員配置基準の柔軟化の検討 ・介護行政手続の原則デジタル化 |
高齢化が進むのでニーズがなくならない
日本の65才以上の人口は増え続け、2022年における高齢化率は29.0%となりました。
また平均寿命と、健康上の問題で日常生活に制限のない期間である健康寿命の平均は次の通りです。
性別 | 項目 | 2001年 | 2010年 | 2019年 |
男性 | 平均寿命 | 78.07才 | 79.55才 | 81.41才 |
健康寿命 | 69.40才 | 70.42才 | 72.68才 |
平均寿命と健康寿命の差 | 8.67才 | 9.13才 | 8.73才 |
女性 | 平均寿命 | 84.93才 | 86.30才 | 87.45才 |
健康寿命 | 72.65才 | 73.62才 | 75.38才 |
平均寿命と健康寿命の差 | 12.28才 | 12.68才 | 12.07才 |
平均寿命と健康寿命の差が介護の必要な期間となりますが、この値は男性で8年〜9年程度、女性で12年程度と平均寿命や健康寿命がのびてもほとんど変化していません。そのため、訪問介護で働く職員には将来的にも一定のニーズがあると予想できるのです。参考:内閣府「令和5年版高齢社会白書」 経営状態の良くない事業所は淘汰されつつある
2023年1月に株式会社東京商工リサーチは、2022年の「老人福祉・介護事業」倒産について、介護保険制度が始まった2000年以降で最多の143件(前年比76.5%増)となったことを発表しました。
この143件の中で訪問介護は50件と約1/3を占めています。
東京商工リサーチでは、大手の介護サービス事業所と小規模の介護サービス事業所の格差が拡大すると、2023年にはさらに倒産する事業所が増加すると予想しているのです。
一見訪問介護の将来にとってネガティブなニュースに見えますが、経営状態の良くない事業所が淘汰されつつあるとも言えます。
このことから、将来にわたって長く訪問介護の仕事を続けたいなら、大手で経営状態の良い事業所を選ぶことで、給料が上がる可能性も高まると言えるでしょう。
まとめ
訪問介護の給料は同じ事業所で長く働いたり、資格を取得したりすることで上がる場合が多いですが、事業所の経営状態や人事評価基準も把握しておくと、より細やかな対策が取れるでしょう。訪問介護は将来性のある仕事なので、ぜひ納得のいく給料がもらえる事業所を選び、スキルアップに取り組んでみてください。※掲載情報は公開日あるいは2023年09月28日時点のものです。制度・法の改定や改正などにより最新のものでない可能性があります。