介護職におけるクズとは?
日本語で「クズ」とは役に立たないものや必要な部分を取り除いた残りかすという意味であることから、役に立たない人の例えとしても用いられます。
2023年10月現在、Google検索で「介護職 クズばかり」と入力すると、検索窓に候補として表示されたキーワードは次のようなものでした。
介護職 変な人多い
介護職員 レベル低い
介護 馬鹿が多い
介護職 恥ずかしい
介護職員 民度 低い
介護職 メンタル やられる
介護職員 常識がない
これらの結果から、介護職におけるクズが具体的にどのようなイメージを持たれているのかがわかります。
介護職がクズばかりと言われる原因
介護職がクズばかりと言われてしまう原因は、どのような所にあるのでしょうか。
前提として、介護業界で仕事をしていない人はそもそも介護職の現状についてあまり深く理解していません。
2022年8月に株式会社リクルートが運営する「HELPMAN JAPAN」が、全国の18才〜50才の介護職未経験の男女244人と全国の介護事業者857社を対象に、アンケート調査を行いました。
介護業界の実態について、次の項目を「知っていた」と回答した人の割合は次のような結果でした。
項目 | 「知っていた」と回答した割合 |
資格の有無にかかわらず、未経験からでもスタートできる職種であること | 30.3% |
介護事業者には、経営を支える人事・総務・営業・企画などの部門があること | 22.1% |
自動車、化粧品、食品、鉄道、運輸、教育などの多様な業界の大手企業が高齢者向けビジネスに参入していること | 22.1% |
現場職だけではなく、マネジメントや介護に関わるさまざまなポスト、グローバル展開する等、さまざまな選択肢があること | 17.2% |
主に身体介護を行わない、介護助手というサポート職種があること | 16.8% |
介護業界に新たに転職した方のうち約7割近くの方が介護業界以外の業界からの転職であること | 15.2% |
一番多い「介護職は未経験からでも始められる」という項目でも知っていた人の割合は30.3%で、介護職を経験したことのない人には介護業界の実態はほとんど理解されていないのがわかります。
この結果から、介護職の経験がない人の中には根拠なく「介護職はクズばかり」と言っている人も多いことが予想できるのです。
これを踏まえて、介護職がクズばかりと言われてしまう原因を3つご紹介します。
年収が低いイメージがある
介護職がクズばかりだと言われてしまう原因の1つに、年収が低いイメージが払拭できていないことが挙げられます。
2022年に公益財団法人介護労働安定センターが行った「令和4年度 介護労働実態調査」において、介護業界で働く27,036人の平均年収について調べた所次のような結果でした。
職種 | 年収 |
労働者全体 | 3,761,881円 |
訪問介護員 | 3,398,011円 |
介護職員 | 3,572,439円 |
サービス提供責任者 | 3,995,304円 |
生活相談員 | 3,896,774円 |
看護職員 | 4,309,855円 |
介護支援専門員 | 3,937,569円 |
一方、同じ2022年に厚生労働省が行った「令和4年賃金構造基本統計調査」では、一般労働者の平均年収は311万8,000円だったのです。
介護業界で働く労働者全体の平均年収と比較すると約64万円も差があることから、介護職の平均年収は一般労働者より高いにもかかわらず、低いというイメージが払拭できていないのがわかります。
国では介護職員の処遇改善に継続的に取り組み、2022年10月には処遇改善のための加算である「介護職員処遇改善加算」「介護職員等特定処遇改善加算」「介護職員等ベースアップ等支援加算」の取得割合がそれぞれ93.8%、75.9%、85.4%となりました。
今後は各事業所で加算に基づき、待遇の改善がさらに進むものと予想されます。
ハラスメントがある
介護職がクズばかりと言われてしまう原因には、職場内でハラスメントが起こってしまう現状も挙げられます。
「令和4年度 介護労働実態調査」で、介護業界で働く19,890人に職場内でどのようなハラスメントを受けたかをたずねた所、次のような結果が出ました。
項目 | 割合 |
脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃) | 8.1% |
隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し) | 4.4% |
私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害) | 4.0% |
業務上明らかに不要なこと、遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求) | 3.5% |
暴行・傷害(身体的な攻撃) | 1.5% |
業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過少な要求) | 1.4% |
その他 | 1.1% |
全て当てはまらない(受けたことがない) | 47.9% |
無回答 | 37.4% |
受けたことがないと明確に回答した人は約半数にとどまり、回答をしなかった人が37.4%もいる所にハラスメントを解決する難しさを感じる結果となっています。
厚生労働省ではこのような現状から、ホームページに介護現場におけるハラスメント対策マニュアルや研修の手引きを掲載し、対策を強化しています。
高齢者虐待の増加
介護職がクズばかりと言われる原因には、高齢者虐待の増加も挙げられます。
2021年に厚生労働省が行った「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」に基づく対応状況に関する調査において、介護業界で働く人による高齢者虐待の相談・通報件数と、虐待と判断された件数は次の通りでした。
| 2006年度 | 2013年度 | 2021年度 |
相談・通報件数 | 273件 | 962件 | 2390件 |
虐待判断件数 | 54件 | 221件 | 739件 |
2006年と2021年の結果を比較してみると、相談・通報件数は約8.8倍、虐待判断件数は約13.7倍に増加しています。
この結果を踏まえて、厚生労働省では高齢者虐待への対応を強化し、各都道府県知事が市町村と役割分担の上モニタリングを行い、再発防止に向けた取り組みを評価することが重要だとしています。
介護職がクズばかりというイメージを払拭するためには?
介護職がクズばかりというイメージを払拭するためには、どのようなことをすればよいのでしょうか。
国や地方自治体が行っている施策と、個人でできることに分けて見ていきましょう。
国や地方自治体の施策
福祉や介護のイメージを向上させるために行っている、国や地方自治体の主な取り組みは次の通りです。
介護のしごと魅力発信等事業
2021年度に、厚生労働省によって公募された6つの事業実施団体により、福祉・介護分野への多様な人材の流入や定着を目的とした「介護のしごと魅力発信等事業」が行われました。
各事業実施団体の取り組みは次の通りです。
テレビや新聞など発信力のある媒体が中心となり、年間を通じて子供から大人まで幅広い年齢層をターゲットとし、介護職の働き方の現状や魅力について発信し続けているのが特徴的だと言えるでしょう。
地方自治体の取り組み
福祉や介護のイメージアップに取り組む地方自治体は多数ありますが、宮城県では介護の魅力発信のためのPRツールをホームページに掲載し、県民が誰でも広報ツールとして活用できるようにしています。
「ケア・ヒーローズ」と名づけられたパンフレットでは中学3年生を対象に、介護とは何かから介護福祉士の1日の流れ、介護の仕事に就くための方法まで詳しく紹介してあります。
また「ケア・ヒーローズ」の映像版は介護の現場で働く人へのインタビューを中心に構成されており、より介護職の働き方の現状が伝わりやすくなっているのです。
ホームページから手軽にツールを手に入れられることで、県民の誰もが介護職についての正しい知識を学べるようになっているのが特徴的だと言えるでしょう。
個人でできること
介護職がクズばかりというイメージを変えるために、個人でできることを3つご紹介します。
接遇マナーを身に着ける
介護職がクズばかりというイメージを払拭するには、まず接遇マナーを身につけましょう。
利用者を尊重する振る舞いを仕事の中で身に着ければ、周囲の人にもそれを自然に行うようになるため、介護の現場で働く人のイメージが少しずつ変わってくるはずです。
介護における接遇マナーの基本として、次の5つの原則を覚えましょう。
接遇マナーは長く仕事を続けている人ほどできていると思い込みやすく、改善点があっても指摘されにくくなるので、親しい友達や家族の意見に耳を傾けてみることが大切です。
資格を取得し専門性を活かして仕事をする
介護労働実態調査において介護業界で働く7,643人に、今後取りたい資格についてたずねた所、次のような結果でした。
資格の種類 | 割合 |
介護支援専門員(ケアマネージャー) | 35.4% |
介護福祉士 | 23.2% |
社会福祉士 | 16.1% |
主任介護支援専門員(主任ケアマネージャー) | 14.7% |
認定介護福祉士 | 9.9% |
今後取りたい資格として人気が高いのは、どれも介護業界でより専門性を活かして働けるようになるためのものばかりです。
このことから介護職がクズばかりというイメージを変えるためには、より介護職として専門性を高めるのも1つの方法だと言えるでしょう。
研修に積極的な職場で働く
介護職がクズばかりと言われないようにするためには、人材育成のための研修に積極的に取り組む事業所で働くのもよいでしょう。
介護労働実態調査において1,701の事業所を対象に、人材育成のための取り組みについてたずねた所、次のような結果でした。
取り組み内容 | 割合 |
教育・研修計画を立てている | 59.8% |
職員に後輩の育成経験を持たせている | 37.3% |
教育・研修の責任者(兼任を含む)もしくは担当部署を決めている | 35.6% |
採用時の教育・研修を充実させている | 35.1% |
法人全体(関連会社を含む)で連携して育成に取り組んでいる | 32.9% |
面接時に教育や研修がどのように行われるのかは確認できるので、行き当たりばったりではなく計画を立てて行っている事業所を選ぶと自分のスキルアップにつながります。
まとめ
介護職がクズばかりという意見は、介護業界で働いたことのない人が根拠なく言っている場合もあるため、イメージ払拭のために国や地方自治体が積極的に取り組みを続けています。
介護職は社会的地位が上がらないものと決めつけてしまうことなく、個人でもできる資格取得や接遇マナーに取り組み、介護職の印象が少しでも良くなるよう務めてみてはいかがでしょうか。