介護士の給料は資格なしとありでどのように違うのか
資格には、その資格なしでは業務を行ってはいけない「業務独占」の資格と、資格なしではその名称を名乗って業務をしてはいけない「名称独占」の資格の2種類があります。
2024年1月現在介護業界の資格は全て「名称独占」の資格に該当するため、資格の名前を勝手に名乗らない限りは資格なしでも仕事をすることができるのです。
2022年に公益財団法人介護労働安定センターが発表した「令和4年度介護労働実態調査」において 17,125 事業所を対象に介護業界で働く人が保有する資格についてたずねた所、無資格と回答した人の割合は次のような結果でした。
項目 | 割合 |
全体 | 7.9% |
訪問介護員 | 0.6% |
介護職員 | 12.1% |
サービス提供責任者 | 0.6% |
全体でも資格なしで働く人は10%に満たないため、それほど人数は多くないのがわかります。
介護士の給料は資格なしとありでどのように違うのか
介護士の給料は資格なしと資格ありでどのように違うのでしょうか。
3つの観点からご紹介します。
資格の有無で平均給与額に違いがある
2022年に厚生労働省が発表した「令和4年度介護従事者処遇状況等調査」において、介護職員に保有資格別に平均給与額をたずねた所、次のような結果となりました。
保有する資格 | 平均給与額(単位:円) |
介護福祉士 | 331,080 |
社会福祉士 | 350,120 |
介護支援専門員 | 376,770 |
介護福祉士実務者研修 | 302,430 |
介護職員初任者研修 | 300,240 |
資格なし | 268,680 |
資格なしで働く人と介護福祉士の資格を持つ人の平均給与額の差は62,400円、一番平均給与額の高い介護支援専門員の資格を持つ人との差は108,090円もあり、介護士は資格を持っているかどうかで給料が大きく異なるのがわかります。
無資格の場合年収が3,224,160円、介護福祉士の資格を持つ人の場合3,972,960円となり、年単位で748,800円もの差額が生まれることとなるのです。
このことから、介護士として仕事をするなら資格を持っていた方が給料を多くもらえて有利だと言えるでしょう。
資格は給与の引き上げ要件となる
「令和4年度介護従事者処遇状況等調査」において1,283件の介護事業所を対象に給与等の引き上げの要件についてたずねた所、次のような結果でした。
要件の内容 | 割合 |
勤続年数 | 24.4% |
経験年数 | 14.3% |
資格の保有 | 24.8% |
サービス提供責任者である | 3.9% |
主任介護支援専門員である | 1.0% |
勤務形態(常勤・非常勤) | 27.9% |
雇用形態(正規・非正規) | 20.2% |
勤務時間 | 11.9% |
管理職である(ユニットリーダーを除く) | 7.1% |
管理職以外である | 10.3% |
人事評価 | 37.9% |
要件にかかわらず | 6.9% |
その他 | 13.8% |
要件にかかわらず給与を引き上げている事業所は全体のわずか6.9%で、多い要件は人事評価、勤務形態、勤務年数、資格の保有となっています。
このことから介護士は資格を取得することで給料が上がりやすくなると言えるでしょう。
資格は賞与にはあまり影響がない
「令和4年度介護労働実態調査」において資格別に賞与の状況についてたずねた所、次のような結果が出ました。
| 制度として賞与の仕組みがある | 経営状況によって支払われることもある | 賞与はない | わからない | 無回答 |
介護福祉士 | 68.9 | 13.0 | 14.0 | 2.9 | 1.2 |
介護福祉士実務者研修 | 66.3 | 13.5 | 14.1 | 4.8 | 1.3 |
介護職員初任者研修 | 60.8 | 14.7 | 17.2 | 5.8 | 1.5 |
主任介護支援専門員 | 63.4 | 14.5 | 20.6 | 0.8 | 0.7 |
介護支援専門員 | 67.4 | 12.7 | 17.0 | 1.8 | 1.2 |
資格なし | 51.0 | 18.2 | 21.0 | 8.8 | 1.0 |
※(単位:%)
賞与に関しては、資格なしの人より資格ありの人の方が制度として賞与の仕組みがある事業所で勤務できる可能性は高まりますが、経営状態により必ずしも賞与が支払われるとは限らないのが現状です。
このことから介護士は資格を取得しても、賞与についてはあまり大きな影響を及ぼさないと言えるでしょう。
介護士の仕事内容は資格なしとありでどのように違うのか
介護士の仕事内容は資格なしと資格ありでどのように異なるのでしょうか。
資格なしでもできることと資格なしではできないことにわけてご紹介します。
介護士が資格なしでもできること
介護士が資格なしでもできる仕事内容は次の通りです。
項目 | 概要 |
生活援助業務 | ・身体介護以外で利用者が日常生活を営むことを支援するサービス(掃除、洗濯、ベッドメイク、衣類の整理・被服の補修、一般的な調理・配下膳、買い物・薬の受け取りなど) |
身体介護業務(有資格者の指導の下に行う) | ・利用者の身体に直接接触して行われるサービス等(サービス準備・記録等、排泄・食事介助、清拭・入浴、身体整容、体位変換、移動・移乗介助、外出介助、起床と就寝の介助、服薬介助、自立生活支援・重度化防止のための見守り的援助など) |
利用者の送迎業務(普通自動車免許が必要) | ・車で利用者の送り迎えをする業務 |
事務作業 | ・施設の受付や電話対応、備品の発注・管理、レクリエーションの企画・準備、郵便物の発送、レクリエーションの企画・運営など |
生活援助業務が中心となりますが、意外にさまざまなことができるのがわかります。
介護士が資格なしではできないこと
介護士が資格なしではできないことは次の2つです。
利用者に対し身体介護を1人で行ったり、痰の吸引や経管栄養などの医療的ケアをしたりするのは資格なしでは行えません。
介護士は無資格だと働けなくなるのか
介護士は無資格だといずれ介護業界では働けなくなるのでしょうか。
令和3年度の介護報酬改定時に示された新たな考え方と施策について説明します。
認知症介護基礎研修とは
令和3年度の介護報酬改定時に、介護業界で働く人の認知症対応力の向上を目的として認知症介護基礎研修が義務付けられることとなりました。
具体的には介護サービス事業者が、介護士の中で医療・福祉関連の資格を持たない人に対して認知症介護基礎研修を受講させるために必要な措置を講じなければならないとしたのです。
対象は全ての介護保険サービスで働く人で、3年の経過措置期間と新入職員の受講について1年の猶予期間を設けることとなっています。
また研修については質を確保しつつe-ラーニングなどを用いて受講しやすい環境整備をするとしています。
研修のカリキュラムやかかる費用、開催日時や場所は研修を実施する地方自治体や団体によって異なるため、詳細は確認が必要です。
認知症介護基礎研修が免除される人とは?
認知症介護基礎研修が免除されるのは、以下の資格を既に取得している人です。
資格の種類 | 資格名 |
医療関連 | ・医師 ・歯科医師 ・薬剤師 ・看護師 ・准看護師 |
福祉関連 | ・介護福祉士 ・社会福祉士 ・精神保健福祉士 ・理学療法士 ・作業療法士 ・言語聴覚士 ・介護支援専門員 ・介護福祉士実務者研修修了者 ・介護職員初任者研修修了者 ・生活援助従事者研修修了者 ・介護職員基礎研修課程修了者 ・訪問介護員養成研修(一級課程、二級課程)修了者 ・認知症介護実践者研修(実践者研修、リーダー研修、指導者研修)修了者 ・管理栄養士 ・栄養士 ・あん摩マッサージ師 ・はり師 ・きゅう師 など |
また以下の人も条件を満たすことで認知症介護基礎研修が免除されます。
項目 | 免除の条件 |
養成施設や福祉系高校で認知症に関する科目を受講したけれど介護福祉士の資格を持っていない人 | ・養成施設の場合事業所や自治体が卒業証明書と履修科目証明書で科目の受講を確認できること ・福祉系高校は卒業証明書で卒業が確認できること |
認知症介護実践者研修、認知症介護実践リーダー研修、認知症介護指導者研修などを修了した人 | ・特になし |
人員配置基準上で職員数として算定される職員以外の人や直接介護に携わる可能性のない人 | ・特になし |
外国人介護職員 | ・EPA介護福祉士、在留資格「介護」の資格を持っている |
認知症に関する資格の中でも、認知症サポーター養成講座の修了者は資格の目的や内容が認知症介護基礎研修と異なるため、免除されないことに注意しましょう。
介護士が給料を上げる方法
介護士が給料を上げる方法を3つご紹介します。
平均給与額の高い介護資格を取得する
前の項目でもご紹介した通り、介護士の平均給与額は資格の種類によって大きく異なります。
そのため、平均給与額の高い介護資格を取得すれば給料を上げることができます。
平均給与額の高い介護資格と資格なしの場合で年収を試算すると、次のような結果となります。
資格名 | 年収 |
介護支援専門員 | 376,770×12か月=年収4,521,240円 |
社会福祉士 | 350,120×12か月=年収4,201,440円 |
介護福祉士 | 331,080×12か月=3,972,960円 |
資格なし | 268,680円×12か月=年収3,224,160円 |
一番平均給与額の高い介護支援専門員の資格を持った人と資格なしの人で年収を比較すると、1,297,080円もの差が出てきます。
これに実際は賞与が加算されるため、もっと差が大きくなる可能性もあるのです。
資格を取得する前は、それによってどのくらい給料が増えるのかを一度試算してみて、より多く給料が上がる資格を取得するようにしましょう。
副業をする
厚生労働省では2017年3月に決定された「働き方改革実行計画」を踏まえ、安心して副業や兼業に取り組むことができるよう環境整備を進めています。
このことから介護士で給料を増やしたい人は、就業規則で定められたルールを確認の上副業や兼業に取り組むことで収入を増やすことができます。
本業以外で年間20万円以上の収入があった場合は確定申告が必要となるので注意が必要ですが、介護以外の特技や介護の経験が活かせる仕事に就くと効率良く稼ぐことができるでしょう。
人事評価制度の整った事業所に転職する
前の項目でご紹介した通り、給与等の引き上げの要件に「人事評価」を挙げた事業所は37.9%でした。
どれだけ仕事をがんばったとしても、人事評価制度が整っていない事業所では何を基準に給料を上げるのかがはっきりと定まっていないため、望んだ額の昇給がかなわない可能性があります。
そのため介護士が自分の働きに見合った給料を得たいと感じたら、まずは自分が勤務する事業所の人事評価制度について確認し、もしそれが納得のいく内容でなければ転職も視野に入れるのが望ましいでしょう。
自分の仕事を客観的に評価してもらい、それにふさわしい給料をもらうためにも、人事評価制度に関心を持つ姿勢が大切です。
まとめ
介護士の給料は資格なしの場合と資格ありの場合では大きな違いがあるのと、国でも介護サービスの質の向上を目指していることから、今無資格で働いている人はできるだけ早めに資格を取得するのをおすすめします。
働きながら学ぶというのは大変なことではありますが、将来的に自分の働きに見合った収入を得るためにも、この記事も参考にしてできるだけ平均給与額の高い資格を選んで取得してみてください。