高齢者で介護を必要とする家族がいるので、今まで時間をやり繰りして介護を続けてきたけれど、そろそろ仕事との両立も難しくなってきたので今後を考えたいと感じている人はいませんか?
この記事ではそんな人にぜひ活用してほしい介護保険制度について詳しく解説します。
介護保険制度とは?
介護保険制度とは、2000年に施行された介護保険法という法律に基づき、介護や支援が必要な人が自立した日常生活を送ることができるようになるのを目的として、市町村または特別区が必要な保健医療サービスや福祉サービスについて保険給付を行う制度です。介護保険制度は高齢者の支援や介護を社会全体で支えるため、社会保険の形を取っているのが特徴的だと言えるでしょう。また介護保険制度においては、利用者がさまざまなサービスの中から自分に合ったサービスを選択できるようになっているため、ニーズに合った支援や介護を受けることができます。参考:e-GOV法令検索「介護保健法」 介護保険制度が生まれた背景
介護保険制度が生まれたのは、どのような背景があってのことなのでしょうか。
平均寿命とは0才時に何才まで生きられるかを統計から予測した平均余命のことで、健康寿命とは健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる時間のことですが、2022年に内閣府が発表した「令和4年高齢社会白書」によると、日本人の平均寿命や健康寿命は次のような結果でした。
| 平均寿命 | 健康寿命 | 支援や介護が必要な期間 |
男性 | 81.56才 | 72.68年 | 8.88年 |
女性 | 87.71才 | 75.38年 | 12.33年 |
平均寿命と健康寿命の差が支援や介護を必要とする期間となるので、男性と女性でそれぞれ計算してみると男性は8.88年、女性は12.33年もの間支援や介護を受けて生活を送らなければなりません。このように介護を必要とする期間が長期化するのを背景に、介護保険制度は生まれたと言えるでしょう。また2019年に国立社会保障・人口問題研究所が発表した「日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計」によると、2015年から2040年における単独世帯の増加率は8.3%、また2020年から2025年における夫婦のみの世帯の増加率は0.9%となっています。このように核家族化が進み、介護者と要介護者の両方が65才以上の高齢者という状態の老老介護となる可能性の高い、夫婦のみの世帯が増加してきたことも介護保険制度が生まれた背景の1つだと言えるでしょう。参考:内閣府「令和4年高齢社会白書」参考:国立社会保障・人口問題研究所「『日本の世帯数の将来推計(都道府県別推計)』(2019年推計)」 介護保険制度の目的
介護保険制度の目的は介護保険法の第1条に記載してあり、支援や介護を必要とする人の尊厳を守り、残存能力を活用して自立した日常生活を送れるようにするためとしています。高齢者に対しては必要な支援や介護を社会全体で支え、若い世代に対しては老後に対する不安を軽減するのを目的に介護保険制度があることがわかるでしょう。参考:e-GOV法令検索「介護保健法」 介護保険制度の被保険者について
介護保険制度の被保険者については、介護保険法の第9条に記載があるので内容を表にまとめてみました。
| 第1号被保険者 | 第2号被保険者 |
対象者 | ・65才以上の人 | ・40 才以上 65 才未満の健保組合、全国健康保険協会、国保などの医療保険に加入している人※40才になると自動で資格取得できる※65才を迎えると自動的に第1号被保険者に切り替わる |
受給要件 | ・要介護認定を受けて要介護状態となった人 ・要介護認定を受けて要支援状態となった人 | ・要介護認定を受けて要介護状態、要支援状態となったのが特定疾病が原因となる場合に限定 |
介護保険料の徴収方法 | ・保険者である市町村と特別区が年金から天引きする ・65才になった月から徴収開始する | ・医療保険料と一緒に給与から天引きする ・40才になった月から徴収開始する |
65才以上でなくても、40才以上で特定疾病を理由に要介護状態や要支援状態になった場合は介護保険サービスを受けられるということです。特定疾病とは次の16種類の病気を指します・・がん(医師が回復の見込みがないと判断した場合に限る)・関節リウマチ・筋萎縮性側索硬化症(ALS)(指定難病2)・後縦靱帯骨化症(OPLL)(指定難病69)・骨折を伴う骨粗鬆症・初老期における認知症・進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病・脊髄小脳変性症(指定難病18)・脊柱管狭窄症・早老症・多系統萎縮症(指定難病17)・糖尿病性神経障害、糖尿病性腎症および糖尿病性網膜症・脳血管疾患・閉塞性動脈硬化症・慢性閉塞性肺疾患・両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症特定疾病には治療をしても治りにくい病気や、どうして発病したのか明らかでなく治療方法が確立していないため長期の療養を必要とする指定難病が多いことがわかります。参考:e-GOV法令検索「介護保健法」参考:難病情報センター「指定難病一覧」 介護保険制度の利用の流れについて
介護保険制度はどのような手順を踏むことで利用できるようになるのでしょうか。順を追って流れを説明します。①介護保険制度を利用したい本人やその家族が市町村の窓口に要介護認定の申請を行う(第1号被保険者は「介護保険の被保険証」、第2号被保険者は「介護保険の被保険証」と「医療保険者の被保険者証」の両方を持参する)②市町村が要介護認定を行い、介護の必要性を示した要介護度を申請から30日以内に通知する③本人の意志に基づいてサービスを選択し、ケアプランを作成する④サービス事業者に「介護保険被保険者証」と「介護保険負担割合証」を提示して、ケアプランに基づいたサービスを受ける(自己負担は1割~3割)この中の要介護認定については介護保険法の第4章第2節に詳細が記載されているのですが、次のような流れで行われます。①市町村の認定調査員による認定調査と主治医の意見書に基づいたコンピュータ判定を行う(1次判定)②保健・医療・福祉の専門家によって構成される介護認定委員会により1次判定の結果と主治医の意見書などに基づいた審査判定を行う(2次判定)③市町村が要介護認定を行う要介護度は要支援1~2、要介護1~5の7つの区分で認定結果が通知されるのですが、もしこれらの手続きが難しいと感じる場合は、住んでいる地域の地域包括支援センターに相談すると、手続きを代行してもらえます。地域包括支援センターは地方自治体のホームページなどに連絡先の一覧が掲載されているため、必要な人は確認してみてください。参考:e-GOV法令検索「介護保健法」参考:神奈川県「地域包括支援センター一覧」 介護保険制度で受けられるサービスとは?
介護保険制度で受けられるサービスには、どのような種類があるのでしょうか。
介護保険法の第4章第3節に記載がある介護給付、第4章第4節に記載がある予防給付で合計7種類あるため、表にまとめてみました。
| 都道府県などが指定・監督をするサービス | 市町村が指定・監督をするサービス |
介護給付をするサービス | ・居宅介護サービス ・施設サービス | ・地域密着型介護サービス ・居宅介護支援 |
予防給付をするサービス | ・介護予防サービス | ・地域密着型介護予防サービス ・介護予防支援 |
居宅介護サービス
居宅介護サービスとは自宅での生活を支えるサービスのことで、利用者ができるだけ自宅で自立した生活を送ることを目的とし、次のような種類があります。
居宅介護サービスの分類 | 居宅介護サービスの種類 | 概要 |
訪問サービス | 訪問介護(ホームヘルプ) | ・食事・排泄・入浴などの介護(身体介護)や、掃除・洗濯・買い物・調理などの生活の支援(生活援助)をする ・通院を目的とした乗車・移送・降車サービスをする場合もある |
訪問入浴介護 | ・看護職員と介護職員が持参した浴槽で入浴介護をする |
訪問看護 | ・看護師が主治医の指示のもとバイタルチェック、清潔の保持、在宅での医療行為、看取りなどをする |
訪問リハビリテーション | ・理学療法士、作業療法士、言語聴覚士がリハビリをする |
通所サービス | 通所介護(デイサービス) | ・通所介護を実施する施設で食事、入浴、リハビリなどを日帰りで行う |
通所リハビリテーション(デイケア) | ・リハビリを実施する施設でリハビリと日常生活の支援を行う |
短期入所サービス | 短期入所生活介護(ショートステイ) | ・利用者ができるだけ自宅で自立した生活を送ることや家族の介護負担軽減を目的に日常生活の支援やリハビリを行う |
短期入所療養介護 | ・利用者ができるだけ自宅で自立した生活を送ることや家族の介護負担軽減を目的に医療、看護、リハビリ、日常生活の支援を行う |
福祉用具についてのサービス | 福祉用具貸与 | ・13品目の福祉用具の中から指定業者が利用者の心身の状況に合ったものを貸与する |
福祉用具販売 | ・5品目の福祉用具の中から指定業者が利用者の心身の状況に合ったものを販売する |
施設サービス
施設サービスとは利用者が自宅で自立した生活を送れるようになることを目的として、施設で生活をしながら受けるサービスを指し、次のような種類があります。
施設サービスの種類 | 概要 |
介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム) | ・常に介護が必要な人を受け入れ日常生活の支援やリハビリ、医療などのサービスを行う |
介護老人保健施設(老健) | ・自宅での自立生活に向けてリハビリ、医療、介護などのサービスを行う |
介護療養型医療施設 | ・長期にわたって療養が必要な人を受け入れ医療、リハビリ、介護などのサービスを行う |
特定施設入居者生活介護 | ・指定を受けた有料老人ホームや軽費老人ホームが日常生活の支援やリハビリなどのサービスを行う |
介護医療院 | ・長期にわたって療養が必要な人を受け入れ療養上の管理、医療、看護、リハビリ、介護などのサービスを行う |
入居してサービスを受けるのは同じでも、医療、介護、リハビリなど、どのサービスを重要視するかによって異なる施設を選ぶことができるのがメリットだと言えるでしょう。
介護予防サービス
介護予防サービスはできるだけ要介護状態に陥ることのないよう残存機能の維持やADL(日常生活動作)の改善を目的とするサービスで、次のような種類があります。
介護予防サービスの分類 | 介護予防サービスの種類 | 概要 |
訪問サービス | 介護予防訪問入浴介護 | ・看護職員と介護職員が持参した浴槽で入浴介護をする |
介護予防訪問看護 | ・看護師が主治医の指示のもとバイタルチェック、清潔の保持、在宅での医療行為などをする |
介護予防訪問リハビリテーション | ・理学療法士、作業療法士、言語聴覚士がリハビリをする |
通所サービス | 介護予防通所リハビリテーション | ・リハビリを実施する施設でリハビリと日常生活の支援を行う |
短期入所サービス | 介護予防短期入所生活介護(ショートステイ) | ・利用者ができるだけ自宅で自立した生活を送ることや家族の介護負担軽減を目的に日常生活の支援やリハビリを行う |
介護予防短期入所療養介護 | ・利用者ができるだけ自宅で自立した生活を送ることや家族の介護負担軽減を目的に医療、看護、リハビリ、日常生活の支援を行う |
介護給付のサービスと比較すると種類は多くありませんが、どのようなサポートを受ければ将来要介護状態になりにくくなるのかを考えて選ぶことをおすすめします。
地域密着型介護サービス
地域密着型介護サービスとは利用者が自宅で自立した生活を送れるようになることを目的とし、地域や家族との結び付きを重視しながら行われる介護サービスのことで、次のような種類があります。
地域密着型介護サービスの種類 | 概要 |
定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | ・24時間365日、看護や介護のサービスを一体的に必要なタイミングで行う |
夜間対応型訪問介護 | ・18時~翌8時までの巡回時に必要な介護サービスを受ける定期巡回と、夜間の急変に対応する随時対応の2種類がある |
地域密着型通所介護 | ・定員19人未満のデイサービスセンターなどで日常生活の支援やリハビリなどを行う |
認知症対応型通所介護 | ・デイサービスセンターやグループホームなどで認知症の人を対象とした専門的なケアを行う |
小規模多機能型居宅介護 | ・通所サービスを中心に宿泊や訪問介護なども組み合わせて日常生活の支援やリハビリを行う |
認知症対応型共同生活介護(グループホーム) | ・5~9人の認知症の人に対し共同生活の中で日常生活の支援やリハビリを行う |
地域密着型特定施設入居者生活介護 | ・入居定員30人未満の軽費老人ホームや有料老人ホームが日常生活の支援やリハビリを行う |
看護小規模多機能型居宅介護 | ・通所サービスを中心に宿泊や訪問介護、訪問看護なども組み合わせて看護と介護の一体的なサービスを行う |
地域のニーズに則した細やかな対応や、少人数の施設でのサービスが多いため、住み慣れた地域で顔見知りの人たちと生活をしていきたい人におすすめです。
居宅介護支援
居宅介護支援とはケアマネージャーが適切な介護サービスを受けられるようにケアプランを作成し、事業者との連絡・調整をしてくれるサービスです。
ケアプランの作成にあたって利用者負担が発生しないことも覚えておきましょう。
地域密着型介護予防サービス
地域密着型介護予防サービスとは利用者が自宅で自立した生活を送れるようになることを目的とし、住み慣れた地域でこれからも生活ができるよう状況に応じて柔軟に提供されるサービスのことで、次のような種類があります。
地域密着型介護予防サービスの種類 | 概要 |
介護予防認知症対応型通所介護 | ・デイサービスセンターやグループホームなどで認知症の人を対象とした専門的な介護予防を行う |
介護予防小規模多機能型居宅介護 | ・通所サービスを中心に宿泊や訪問介護なども組み合わせて介護予防のための日常生活の支援やリハビリを行う |
介護予防認知症対応型共同生活介護(グループホーム) | ・5~9人の認知症の人に対し共同生活の中で介護予防のための日常生活の支援やリハビリを行う |
地域密着型介護サービスと比較すると種類は多くありませんが、住み慣れた地域で近所の人たちと介護予防をしながら長く暮らしたい人におすすめです。
介護予防支援
介護保険制度の今後
介護保険制度を取り巻く状況は今後どのように変化していくのでしょうか。
給付や保険料、制度の改正の2つの観点から解説します。
介護給付と保険料の増加
2019年に厚生労働省が発表した「令和元年度 介護保険事業状況報告(年報)」によると要介護認定を受けた人の人数は669万人で、2000年が256万人だったのと比較すると、約2.5倍に増加しています。これは介護保険法ができた当初より介護保険制度への理解が深まったことを意味するので望ましいことではありますが、一方で2019年における保険給付は、利用者負担を除いて9兆3,524億円にも上りました。保健給付が増加するに応じて保険料も増えており、2000年には65才以上の人が支払う保険料が2,911円だったのが、2021年からは6,014円となっています。これらのことから、介護保険制度においては高齢化に歯止めがかからない限り、介護給付と保険料の金額が大きくなっていくことが予想されます。参考:厚生労働省「令和元年度 介護保険事業状況報告(年報)」参考:厚生労働省老健局「介護保険制度の概要」 介護保険制度の改正
介護保険制度は、原則として3年を1期としたサイクルで収支を見通した上で制度の運用が行われています。
そのため直近では2021年4月、2018年4月などに改正が行われてきました。
この時保険料だけを見直すのではなく、支援や介護のニーズに応じたさまざまな新しい体制やサービス、施設などが作られるため、介護保険制度は介護の今を捉えて改正を繰り返しながらこれからも進歩し続けていくのではないでしょうか。
まとめ
介護保険制度とは、介護や支援が必要な人が自立した日常生活を送ることができるようになるのを目的として、市町村または特別区が必要な保健医療サービスや福祉サービスについて保険給付を行う制度です。
利用者本人のQOL(生活の質)を高め、家族の生活のペースを維持するためにも必要な時には遠慮なく申請し、ニーズに合ったサービスを利用してみてください。