介護業界で採用を担当している人の中には、面接をドタキャンされた経験を持つ人も少なくないのではないでしょうか。
この記事では介護業界における面接ドタキャンの実態から、面談をドタキャンされないよう企業側ができる対策まで詳しく解説します。
介護業界における面接ドタキャンの実態とは?
介護業界における面接ドタキャンの実態とはどのようなものなのでしょうか。
人事にとって面談を当日キャンセルされるとはどのようなことなのかと、面接ドタキャンの実態にわけてご紹介します。
人事の大きな悩みとなる面接ドタキャン
2022年に株式会社マイナビが従業員3名以上の企業において2021年1~12月に中途採用業務を担当しており、「採用費用の管理・運用」にも携わっている人事担当者1,400人を対象に中途採用状況調査を行いました。
その結果医療・福祉の職種において正社員が不足していると感じている企業の割合は40.9%に上り、中途採用を実施した理由として「退職者の増加」を挙げた企業は51.8%だったのです。
企業側としては良い人材がいればぜひ採用したいと考え、中途採用を行っていると言えるでしょう。
また2018年に株式会社Touch&Linksが中小企業の人事担当者101人を対象に行ったアンケートでは、採用において困っていることとして「ドタキャン」を挙げた担当者が25.4%もいたのです。これらのことから介護業界では人材不足から中途採用を行ってはみるものの、面談のドタキャンをされることが企業側の人事担当者における大きな悩みとなっていることがうかがえます。参考:株式会社マイナビ「中途採用状況調査2022年版」 面接のドタキャンの実態
中途採用状況調査の結果では、面接を無断キャンセルした人の割合は全体で7.6%で、2019年が16.1%、2020年が10.9%だったのと比較すると年々減少傾向にあります。また医療・福祉・介護の職種においてはこれを下回る5.2%という結果でした。しかし企業側の担当者としては応募者が事故や事件に巻き込まれた可能性も考えるため、落ち着かない状態で応募者を待ち続けることとなってしまいます。参考:株式会社マイナビ「中途採用状況調査2022年版」 介護業界で面接ドタキャンが起こりやすい背景とは?
介護業界で連絡なしでの面接ドタキャンが起こりやすい背景には、どのようなことがあるのでしょうか。
3つご紹介します。
介護業界は正社員が少ない
厚生労働省が提供している職業情報提供サイトjobtagで、介護業界の仕事における就業形態を調べてみたところ、次のような結果となりました。
仕事の種類 | 正社員 | パートタイマー | 派遣社員 | アルバイト |
訪問介護員/ホームヘルパー | 42.2% | 57.8% | 4.7% | 1.6% |
介護事務 | 58.7% | 47.6% | 4.8% | 4.8% |
施設介護員 | 73.8% | 35.4% | 4.6% | 3.1% |
介護支援専門員/ケアマネージャー | 79.1% | 23.9% | 3.0% | 0% |
介護タクシー運転手 | 26.8% | 17.1% | 2.4% | 9.8% |
施設管理者(介護施設) | 84.4% | 10.9% | 4.7% | 1.6% |
老人福祉施設生活相談員 | 87.3% | 12.7% | 0% | 0% |
福祉用具専門相談員 | 73.8% | 19.0% | 4.8% | 0% |
介護業界ではパートタイマーとして働く人の割合が高く、特に訪問介護員では半数を超えています。正社員の面接よりはパートタイマーやアルバイトの面接の方が敷居が低いため、ドタキャンが多くなってしまうのではないでしょうか。参考:厚生労働省職業情報提供サイト「jobtag」 介護業界における有効求人倍率が高い
jobtagで、介護業界の仕事における有効求人倍率を調べてみると次のような結果となりました。
仕事の種類 | 2021年度の有効求人倍率 |
訪問介護員/ホームヘルパー | 12.57倍 |
介護事務 | 0.78倍 |
施設介護員 | 3.25倍 |
介護支援専門員/ケアマネージャー | 4.18倍 |
介護タクシー運転手 | 3.87倍 |
施設管理者(介護施設) | 5.19倍 |
老人福祉施設生活相談員 | 3.6倍 |
福祉用具専門相談員 | 4.18倍 |
有効求人倍率とは企業がハローワークにエントリーする仕事の数(有効求人数)÷働きたい人の数(有効求職者数)で算出されるため、介護業界においては求人に対して大きく応募が不足した状態だと言えます。介護業界全体として求職者優位な状況であるため、面接を当日キャンセルされた経験を持つ企業も少なくないのです。参考:厚生労働省職業情報提供サイト「jobtag」 年収があまり高いとは言えない
厚生労働省が公表している2021年の「賃金構造基本統計調査」と「介護従事者処遇状況等調査」のデータから全国の主要産業に雇用される労働者と介護職員の平均月額給与を比較してみると次のような結果となります。
| 2021年 |
労働者 | 30万7,400円 |
介護職員 | 32万3,190円 (介護職員等特定処遇改善加算Ⅰ~Ⅱを取得している施設・事業所の介護職員) |
介護業界で面接がドタキャンされた場合の損失とは?
介護業界で面談がドタキャンされた場合、企業側にはどのような損失が発生するのでしょうか。
3つご紹介します。
採用コストが予定より多くかかる
面接を当日キャンセルされた場合、採用コストが予定より多くかかってしまいます。
中途採用状況調査の結果では、2021年の医療・福祉・介護の職種における中途採用にかかった費用の平均は382万1千円でした。
また、採用者1人あたりにかかった求人広告費は35万3千円だったのです。
このことから応募者によって面接をドタキャンされた場合、企業側が受ける金銭的な損失は決して少なくないことがわかります。
しかし損害賠償請求をするにしても、応募者から受けた具体的な損害を立証できなければならないため現実的には難しいでしょう。
社内の採用ニーズに応えられない
中途採用状況調査の結果では、2021年に医療・福祉・介護の職種において中途採用を行った理由として「退職者の増加」を挙げた企業が51.8%、「休職者(産休育休を含む)増加のため」を挙げた企業が29.4%でした。
このことから、介護業界では退職者や休職者に代わる人材を早く確保したいと考えて中途採用を行っていることがわかります。
そのため面接を当日キャンセルされた場合、現場の採用ニーズに応えられず現場の負担が大きくなる可能性が高いと言えるでしょう。
採用後にミスマッチが起こる可能性がある
2021年に医療・福祉・介護の職種における採用活動を行った企業で採用者と自社のマッチングに不満があると回答した人の中で、その理由を「書類選考の基準を甘くした」と回答した人が22.8%、「求人などの募集要項を甘くした」と回答した人が21.5%でした。このことから介護業界においては有効求人倍率が高いことや、面談のドタキャンがあることから企業側が選考基準を甘くせざるを得なくなり、採用後にミスマッチが引き起こされている現状がうかがえます。参考:株式会社マイナビ「中途採用状況調査2022年版」 護業界で面談のドタキャンを防ぐために企業側ができること
介護業界で面談のドタキャンを事前に防ぐために企業側はどのようなことができるのでしょうか。
5つご紹介します。
企業の顔としてマナーを守る
応募者は採用担当者をその企業の顔として見ています。
そのためもし採用担当者がビジネスマナーに則していない振る舞いをすると、自社への印象が下がり応募者の意欲を削ぐことになるでしょう。
具体的には次のようなことを心掛けるのをおすすめします。
・上から目線で話したり横柄な振る舞いをしたりしない
・メールでコミュニケーションを取る際は誤字脱字に気を付け、画一的な文章の使用は避ける
・社内で応募者への対応をマニュアル化しておき、会社全体で丁寧に対応できるようにする
・対面での面接の場合は面接場所の最寄り駅や地図も添えて連絡する
応募者にドタキャンというマナー違反をさせないようにするためにも、まずは採用担当者を中心にできれば会社全体でもビジネスマナーを守った対応をし、一緒に働きたいという気持ちを持ってもらうことが大切です。
応募者の時間に配慮する
書類選考の通過や面接日程の連絡などはなるべく早く行うことが望ましいですが、応募者の時間に配慮することも忘れてはいけません。
例えメールであっても深夜や休日に連絡をすることで、応募者には残業や休日出勤をさせられるのではないかといったネガティブな印象を与えてしまうことになるためです。
応募者への連絡は平日の昼間に行い、次のようなことにも気を付けるとなお良いでしょう。
・面接の日程は応募者の予定にも配慮し複数提示する
・日程変更をメールへの1クリックなど簡単に行うことができるようにする
・面接の前日にリマインドメールをする
・リマインドメールへの折り返し連絡がない場合は架電する
・架電して留守電の場合はメッセージを残して再度架電する
応募者の時間を尊重しながら、丁寧な対応をし続けていくことが重要だと言えます。
質問に誠実に回答する
応募者は転職活動をする上で、さまざまな企業と自社を条件の面や社風が自分に合うかどうかなどで比較検討し続けています。
そのため、不明点や働くにあたって不安に感じていることを採用担当者に質問という形で伝えてくることもあるでしょう。
このような時に応募者のわからないことを丁寧に説明することで解決したり、不安な気持ちに寄り添いながら回答を行ったりすることで、自社への印象が良くなるでしょう。
応募者は印象の良い会社には面接ドタキャンなどの不誠実な対応をしにくくなるため、採用されたいという意欲を高めるためにも質問に誠実に対応するのは大切なことです。
選考スピードを上げる
中途採用状況調査では、2021年に医療・福祉・介護の職種における採用活動を行った企業の選考スピードは次のような結果となりました。
| 応募から面接までの平均日数 | 1次面接から内定を出すまでの平均日数 | 内定を通知してから応諾をもらうまでの平均日数 |
医療・福祉・介護の職種でWeb面接の場合 | 7.3日 | 6.2日 | 5.2日 |
医療・福祉・介護の職種で対面面接の場合 | 9.0日 | 6.0日 | 6.1日 |
全体でWeb面接の場合 | 11.7日 | 10.6日 | 7.1日 |
全体で対面面接の場合 | 11.7日 | 9.5日 | 6.8日 |
医療・福祉・介護の職種においては応募から面接までの平均日数、1次面接から内定を出すまでの平均日数ともに全体の平均値と比較して3~4日程度早いため、業界全体としてスピーディーな採用活動を行っていることがわかります。また内定を通知してから応諾をもらうまでの平均日数も全体の平均より1日程度早いので、応募者も早めに決断し入社するかどうかを決める傾向にあるのです。このことからハードルは高いかもしれませんが、選考スピードを上げることで応募者への印象の差別化につながり、面接をドタキャンされるといったことも減らせるのではないでしょうか。参考:株式会社マイナビ「中途採用状況調査2022年版」 ドタキャンをするハードルを上げる
応募者に対して面接は重要なものであることや、企業が貴重な時間を割いて行うことだと意識してもらうようにすることで、面接をドタキャンするハードルを事前に上げておくという方法もあります。
例えばメールで面接についての連絡をする際、「部長の〇〇が面談いたします」「社長の〇〇がご対応いたします」といった形で役職を添えるだけでも、応募者に面接をドタキャンすることへの罪悪感を持ってもらうことができるでしょう。
まとめ
介護業界において面談をドタキャンされるのは企業側にとって大きな悩みですが、年々減少傾向にあるため、応募者とのやり取りにおいてマナーを守ったり、選考スピードを上げたりすることで少しずつ改善が見込めるでしょう。
ぜひこの記事も参考にして、自社に合った形で面接のドタキャンを予防してみてください。