介護難民という言葉を最近知り、自分や家族が将来必要な介護を受けられなくなるのではないかと不安を感じている人はいませんか?
この記事では介護難民の定義から解決策まで詳しく解説します。
介護難民とは?
介護難民とは、介護を必要とする高齢者・障がい者・障がい児であるにもかかわらず、自宅・病院・施設などで必要な介護を受けられない人のことを指します。日本創成会議が2015年6月に発表した日本創成会議・首都圏問題検討分科会提言「東京圏高齢化危機回避戦略」によると、介護が必要であるにもかかわらず介護施設に入居できない人の数は2025年に43万3,591人、2040年に46万9,751人になると試算されました。このことから、介護難民を減らすための解決策が早急に求められるようになったのです。参考:日本創成会議「日本創成会議・首都圏問題検討分科会 提言『東京圏高齢化危機回避戦略』記者会見」 介護難民の現状とは?
介護難民は現状どのような状況に置かれているのでしょうか。
2つご紹介します。
国が公表している特別養護老人ホームの待機者数
2022年12月に厚生労働省が発表した「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」という報道発表資料によると、特別養護老人ホームに入所を申し込んでいるものの、調査時点では申し込んだ特別養護老人ホームに入居できていない要介護3~5の人の数は25.3万人、要介護1~2の人は2.2万人であることがわかりました。このことから、要介護度が比較的高く特別養護老人ホームで必要な介護サービスを受けたいと考えている人でも、入所することができず介護難民となってしまっている現状がうかがえます。参考:厚生労働省「特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和4年度)」 地方自治体が公表している老人福祉施設の待機者数
都道府県でも老人福祉施設の待機者数を公表している場合があるので、表にまとめてみました。
各都道府県とも、より急を要する介護難民に対して優先的に入居させるようにするなどの配慮を行ってはいるものの、根本的な解決には至っていない現状がうかがえます。
また市町村でも待機者数を公表している場合があるため、自分の住んでいる地域のより詳しい待機者数について知りたい場合は、各市町村のホームページを確認してみることをおすすめします。
介護難民が増加する原因
介護難民が増加するのは、どのような原因があってのことなのでしょうか。
3つご紹介します。
少子高齢化
2017年に国立社会保障・人口問題研究所が推計した「日本の将来推計人口」によると、長期の合計特殊出生率を1.44とした場合、人口構成が次のようになると推計されました。
| 2015年 | 2040年 | 2060年 | 2065年 |
総人口 | 12,709万人 | 11,092万人 | 9,284万人 | 8,808万人 |
年少(0才~14才)人口 | 1,595万人(12.5%) | 1,194万人(10.8%) | 951万人(10.2%) | 898万人(10.2%) |
生産年齢(15才~64才)人口 | 7,728万人(60.8%) | 5,978万人(53.9%) | 4,793万人(51.6%) | 4,529万人(51.4%) |
老年(65才以上)人口 | 3,387万人(26.6%) | 3,921万人(35.3%) | 3540万人(38.1%) | 3,381万人(38.4%) |
2015年から2065年まで総人口は約4,000万人程度減少しますが、介護を支えることのできる生産年齢人口は10%程度減少し、対照的に介護を受ける必要のある老年人口が11%程度増加すると予想されているのです。もしこの推計通り少子高齢化が進めば、介護難民は確実に増加するでしょう。参考:国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成29年推計)」 要介護認定者数の増加
2020年に厚生労働省が発表した「令和2年度 介護保険事業状況報告(年報)」によると、要介護(要支援)認定者数が次のように推移していることがわかりました。
| 2000年 | 2010年 | 2015年 | 2020年 |
要介護(要支援)認定者数 | 256万2千人 | 506万2千人 | 620万4千人 | 681万8千人 |
調査を開始した2000年と2020年で要介護(要支援)認定者数を比較すると、およそ2.6倍となっており、介護を必要とする人がここ20年間で急激に増加しているのです。要介護(要支援)認定者数が増加しても、介護サービスを担う人が同じように増加しなければ、介護難民になる人が出てくるということです。参考:厚生労働省「令和2年度 介護保険事業状況報告(年報)」 介護業界の人材不足
2020年に厚生労働省が発表した「令和2年介護サービス施設・事業所調査の概況」で介護の現場で働く人の人数を調査した所、次のような結果でした。
| 訪問介護の訪問介護員 | 通所介護の介護職員 | 介護老人福祉施設の介護職員 | 介護老人保健施設の介護職員 |
人数 | 50万1,666人 | 22万2,157人 | 29万2,875人 | 12万9,219人 |
一方、2021年に公益財団法人介護労働安定センターが行った「令和3年度介護労働実態調査」において、介護事業所で人材不足と感じているかどうかについてたずねた所、不足だと感じている事業所の割合は次の通りでした。
| 2019年 | 2020年 | 2021年 |
訪問介護員 | 81.2% | 80.1% | 80.6% |
介護職員 | 69.7% | 66.2% | 64.4% |
事業所全体 | 65.3% | 60.8% | 63.0% |
介護難民の問題に対して国が行っている解決策
介護難民の問題に対して、国はどのような解決策を講じているのでしょうか。
3つご紹介します。
介護職員への処遇改善
2022年の介護報酬の改訂において、介護職員への処遇改善として次の3つの加算が行われることとなりました。
| 対象 | 算定要件 | 備考 |
介護職員処遇改善加算 | ・介護職員 | ・介護職員処遇改善加算(Ⅰ)キャリアパス要件①~③を満たし職場環境要件①~⑥のうち1つ以上に取り組んでいる・介護職員処遇改善加算(Ⅱ)キャリアパス要件①~②を満たし職場環境要件①~⑥のうち1つ以上に取り組んでいる・介護職員処遇改善加算(Ⅲ)キャリアパス要件①を満たし職場環境要件①~⑥のうち1つ以上に取り組んでいる | ・キャリアパス要件①職位、職責、職務内容等など応じた任用要件と賃金体系を整備する②介護職員の資質向上のための計画を策定して研修の機会を確保し実施する③経験や資格などに応じて昇給する仕組みか一定の基準に基づき定期昇給を判定する仕組みを設ける(明確な就業規則を書面で整備し、全ての介護職員へ周知することを含む)・職場環境要件①入職促進に向けた取り組み②資質の向上やキャリアアップに向けた支援③両立支援や多様な働き方の推進④腰痛を含む心身の健康管理⑤生産性向上のための業務改善の取り組み⑥やりがいや働きがいの醸成 |
介護職員等特定処遇改善加算 | ・事業所が次の3つに該当すると認めた人が対象①経験・技能のある介護職員②その他の介護職員③その他の職種 | ・介護職員処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)のどれかを取得している・介護職員処遇改善加算の職場環境要件に関し複数の取組みを行っている・介護職員処遇改善加算に基づく取組みについてホームページ掲載などを通じた見える化を行っている | ※介護福祉士の配置割合などに応じて加算率を(Ⅰ)(Ⅱ)の2段階に設定 |
介護職員等ベースアップ等支援加算 | ・介護職員(事業所の判断で他の職員の処遇改善にこの加算をあてることもできる) | ・介護処遇改善加算(Ⅰ)~(Ⅲ)のどれかを取得している・賃金アップが継続できるよう加算額の2/3は介護職員などのベースアップ などに使用する | ー |
国が介護難民の解決策として介護業界における人材不足の解消に取り組み、まずは介護の現場で働く人たちが金銭面で報われるよう配慮した施策だと言えるでしょう。また2022年に厚生労働省が介護職員処遇改善加算・介護職員等特定処遇改善加算について請求状況を調べた所、介護職員処遇改善加算は93.4%、介護職員等特定処遇改善加算は70.2%の事業所で請求が行われたため、少しずつ介護業界全体の賃金が上昇する可能性が高いと言えます。参考:厚生労働省「介護職員の処遇改善」 介護現場におけるIcTの利用促進
国では介護難民の解決策として、少ない人数でも多くの要介護者を介護できるよう、介護の現場におけるIcTの利用を推進しています。 具体的には次の3つを施策として行っているのです。・科学的介護の推進・介護の現場における生産性向上のためのガイドラインの公開、e-ラーニングの提供など・地域医療介護総合確保基金による介護ソフトやタブレット端末の導入支援科学的介護システム(LIFE)については利活用に関する事例集が公表されたり、地域医療介護総合確保基金を活動したIcT導入は2019年に195事業所、2020年に2,560事業所、2021年に5,371事業所が行ったと報告されたりしているため、少しずつ介護の現場における効率化が進んできていると言えるでしょう。 参考:厚生労働省「介護現場におけるIcTの利用推進」 家族や自分が介護難民にならないための予防策
家族や自分が介護難民にならないために、何かできる予防策はあるのでしょうか。
3つご紹介します。
介護移住を検討する
介護難民にならないためにできる予防策として有効なのが、介護移住を検討することです。介護移住とは、現在住んでいる地域の介護サービスに余力が少ない場合、介護サービスにかかる費用が安く余力もある地域に移住することを指します。介護サービスを受けていない時から、家族で移住にかかる費用や現地での生活をどのようにしていくかなどの話し合いが必要になりますが、介護難民にならないためには現実的で最も有効な手段だと言えるでしょう。参考になる資料として、日本創成会議が2015年6月に発表した日本創成会議・首都圏問題検討分科会提言「東京圏高齢化危機回避戦略」の中に、「全国各地の医療・介護の余力を評価する」があります。この中には医療・介護に余力のある地域が41地域紹介されているため、これらの地域の中から移住へのサポートがあるかどうかなども含めて検討するのもよいでしょう。参考:日本創成会議「日本創成会議・首都圏問題検討分科会 提言『東京圏高齢化危機回避戦略』記者会見」 介護予防に取り組む
介護難民にならないようにするためには、できるだけ介護サービスを受ける必要のない身体作りをすることが資本となるため、介護予防に取り組むのも有効です。2005年の介護保険法改正以来、国でも介護予防には積極的に取り組みを行い、近年では住民主体の通いの場への参加を推進しています。 通いの場では次のような活動が行われています。・社会参加の促進(ボランティア、茶話会、趣味活動、就労的活動、多世代交流など)・運動機能の向上を目指した運動・会食などによる低栄養の予防・体操などによる口腔機能の向上・多様な学びのプログラムによる認知機能低下予防また新型コロナウイルスの感染予防を鑑みて、Web上にも「地域がいきいき集まろう!通いの場」を設けて介護予防のための情報提供などを行っているので、このような取り組みに定期的に参加したり、情報収集したりすることが介護難民になりにくくなる第一歩となるでしょう。参考:厚生労働省「介護予防」参考:厚生労働省「地域がいきいき集まろう!通いの場」 介護資金を準備する
介護難民にならないようにするためには、介護資金に余裕を持つのも大切なことです。
例えば特別養護老人ホームに申込をして待機状態になってしまっても、有料老人ホームに入居することができる資金があれば、設備が整った施設で手厚いサービスを受けることができるためです。
高齢者にかかるお金というと医療費ばかりに目がいきがちになりますが、働いているうちから介護資金を貯めておくのも介護難民にならないためには重要なことだと言えるでしょう。
まとめ
介護難民とは、介護を必要とする高齢者・障がい者・障がい児であるにもかかわらず、自宅・病院・施設などで必要な介護を受けられない人のことを指します。
国でも介護難民の解決策として介護職員への処遇改善やIcTの利用促進などの施策を行っているため、介護資金を貯める、介護予防をするなど自分でできる対策も積極的に行うことも大事だと言えるでしょう。
ぜひこの記事も参考にして、自分や家族が介護難民にならないよう、準備を進めてみてください。
※掲載情報は公開日あるいは2023年03月14日時点のものです。制度・法の改定や改正などにより最新のものでない可能性があります。