保育士さんの仕事は、子どもと関わること以外にも多岐に渡ります。その中でも「保護者対応」は毎日行うので、保育をする上でとても大切な仕事です。しかし、保護者と良い関係を築きたいけれど、密なコミュニケーションの取り方や、トラブルの対処法に頭を抱える保育士さんは少なくないと思います。とくに保護者からのクレームは、その対応方法によってその後の保護者との関係性が決まってくると言われているので、慎重に行いたいところ。そのためには、まずはトラブルの原因を知っておく
ことが大切です。この記事では、保護者と良い関係を築くコツ
やトラブルが起きたときの対処法
について詳しくお伝えしていきます。 保護者対応で大切な心構え
まずはじめに保護者対応が苦手と感じる保育士さんに、改めて『保護者対応』を行う上で大切なことをご説明します。
保護者対応は誰しもが通る道
子どもを預かり保育する保育士さんにとって、保護者とのコミュニケーションは欠かせません。
苦手だからと避けていてはいつまでたっても保護者からの信頼は得られませんし、経験として身につきませんよね。どの仕事でもいえることですが、何事も「経験」が大切です。
とくに新人保育士さんは先輩保育士の指導のもと保護者対応を学んでいきます。わからないことがあったら、周囲の先輩保育士に相談し「適切な対応策」を学び、実践していくことで経験が培われ、次第に自信もついてきます。
焦らずひとつずつ丁寧に対処していきましょう。
必ず園長やクラス主任に報告・相談をすること
トラブルはどこで何がきっかけで起こるかわかりません。
子どもの怪我にしても、保護者からのクレームにしても、ひとりで解決せずにまずは園長もしくはクラス主任に報告をしましょう。
とくに経験の浅い新人保育士さんは、突然のことにパニックになってしまい、とっさの判断で対応してしまいがちです。
トラブルが起きてしまったら、まずはいったん冷静になり、園長やクラス主任に経緯を報告し指示を仰ぎましょう。
保護者とトラブルになってしまう原因
まずは、保護者とトラブルになる原因について詳しく見ていきましょう。
保育士・保護者にとっての子どもへの思いの差
保育士さんにとっては、保育園の全ての子ども、担当しているクラスの子どもたちが平等に大切です。
しかし、保護者にとっては何よりも我が子が一番。
保護者も保育士さんが大勢の子どもを一度にみていることを理解していますが、それでも自分の子どもを一番気にかけてほしい、可愛がってほしいと思うのは保護者の普通の心理です。
保育士さんがその思いを汲み取らずに対応するとトラブルの原因になることがあります。
考え方や価値観の違い
保育士さんと保護者が考える理想の保育は、価値観や考え方が人それぞれ異なります。
そのため、保育士さんが子どものために良かれと思って取った行動や関わり方が、保護者に不快感を与えてしまうことも。
例えば、子どもが着脱などの身の回りのことが「できない」と言ったとき。保育士さんは、少しずつ自分でできるように、すぐには手を貸さず見守っていました。
しかし保護者の中には、「助けてもらえなくて子どもがかわいそう。」「どうして手を貸してあげないの?」と、保育士さんへの不信感に繋がることも。
保育士さんの考えは保護者には伝わっていないので、このような不信感がクレームやトラブルの原因になることがあります。
お金を払ってプロに預けている意識
保護者にとって、日中子どもを預かってくれる保育園はとても有難い存在です。
保護者は保育料を市町村区に収めており、お金を払ってプロの保育士さんに子どもを預けているため、質の高い保育を期待するのも当然です。
実際に保育士さんは保育のプロ。国家資格を持ち、豊富な知識と経験を活かし、子どもたちに適切な関わりをしてくれることを保護者は求めています。
ゆえに、少しでも園でトラブルがあれば「なぜそうなったのか」「保育士さんは何をやっているのか」とクレームが起きやすくなってしまうのです。
保育士さんの印象や言動
保育士さんの印象や言動ひとつで保護者の信頼度は変わってきます。
例えば、「笑顔がない、挨拶をしてくれない」「正しい敬語が使えていない。」「子どもたちへの態度が悪い」など。
普段意識していないところを、「じつは保護者にみられていた」なんてことは珍しくありません。
保育士さんの印象ひとつで保護者からの信頼度も変わってくるので、日々の態度や言葉遣いに注意し、保護者にいい印象を持ってもらえるよう意識改善を目指しましょう。
保護者トラブルの事例と対応策
常に子どもたちの安全を意識し保育を行っていても、“予期せぬトラブル”起こってしまうもの。保護者とのトラブルを回避するためには、まずはどんなトラブルがあるのかを知る
ことが大切です。そして、トラブルが起きたときに、どのような行動をとれば保護者からの信頼を取り戻すことができるのか、トラブルの内容ごとにみてきましょう。 子ども同士のケンカ
集団生活のなかで少なからず起こりうる問題のひとつに『子ども同士のケンカ』があります。ひとつのおもちゃを取り合ったり、おしゃべりしているうちに悪口を言い合ってしまったり、ときにはお友達に手を出して怪我をさせてしまうことも。もし、ケンカの末に子どもたちが怪我をしてしまったら、保育士さんはどう保護者に報告しなければならないのでしょうか。【対応策】ケンカをしてしまった子どもの保護者には、お迎えのときに説明をします。まずは、実際に起きた状況を話しましょう。トラブルの原因と保育士さんが取った行動、怪我が起きたときには怪我への対応もきちんと保護者に報告します。そして必ず、今回ケンカが起きてしまったことへの注意不足、怪我があった場合には怪我をさせてしまったことへの謝罪をします。説明の際に、加害者や被害者の名前を伝えるかは、園によって対応が異なる
のであらかじめ確認しておきましょう。万が一、保護者から話があれば、途中で遮らず最後までしっかりと聞きましょう。直接相手の保護者に「謝りたい」または「謝ってほしい」と言われたら、園長や主任に指示を仰ぎどうするかを判断
しましょう。 保育士さんの対応に関するトラブル
子どもや保護者に対する、保育士さんの言動や対応へのクレームがでることもあります。
例えば、着脱の援助に対するクレームや子ども同士のケンカの対応など。
また、言葉の行き違いによる誤解や保育士間での対応の違いもクレームの原因となります。
【対応策】
まずは保護者の話をしっかりと聞いてから、その上で自分の対応で誤解や不快感を与えてしまったことを謝罪します。
着脱の援助については、保育の中で行っている「見守り」という援助について伝え、この働きかけによって、子どもたちが少しずつ着脱ができるようになってきていることを伝えましょう。子どもの様子や成長を伝えると、保育士さんの対応の意図を保護者にも分かってもらえるはずです。
また、言葉の行き違いで誤解を与えてしまったときは、まずは素直に謝罪をしましょう。さらに、間違った情報を保護者に伝えてしまったときにも、真摯に謝罪することが大切です。今後そのようなことがないように、気をつける旨も伝えましょう。
園の設備に関するトラブル
基本的に遊具や設備は怪我をしてしまわないよう安全に配慮されており、比較的設備に関するトラブルは少ないように感じます。しかし、それでも子どもたちの行動は予測不能。どれだけ保育士さんが普段から目を離さないように意識していても、回避できないことがあります。例えば、「教室で突然子どもたちが鬼ごっこを始め、走って逃げていた子が転んだ拍子に棚のカドに顔をぶつけてしまった。」ということも。【対応策】まずは転んでしまった子の怪我の状態を確認します。もし、強く頭を打ってしまったり出血をしているようであればすぐにかかりつけの病院に搬送しましょう。そして保護者には、どこにどのような怪我をしているのか、子どもの様子や病院に連れていく旨を事前に電話で連絡
しておきましょう。その際にも、クラス主任や園長への報告、相談は欠かさず行います。
お迎えのときには、状況説明やどう対応したのか、病院に行った場合は医師の説明をきちんと報告しましょう。そして必ず、事前に注意できなかったこと、怪我をさせてしまったことへの謝罪の言葉を忘れてはいけません。怪我をしてしまった設備に関しては、今後同じようなことが起きないためにもカドにクッション材を設けたり、棚を安全な場所に移動したりと怪我防止策を職員内で話し合って改善しましょう。 園の方針に関するトラブル
保育園が不足している近年では、第1希望の保育園に入れなかったから、今の保育園に入園したという子どももいます。
そのような場合、園の方針に対してのクレームが多くなることも…。
例えば、昼食後の歯磨き。取り入れている園もあれば、歯ブラシによる怪我への危険性から取り入れていない園もあります。「他の園では歯磨きをしている」「虫歯になってしまったらどうするのか」というクレームもあるようです。
では、これを例にとり、対応策をご紹介します。【対応策】
まずは、歯磨きを取り入れていない理由を丁寧に伝えましょう。具体的には、「全国の保育園で歯ブラシによる怪我が起きているため、歯磨きに変わる対策を取り入れている」「うがいができる子どもは、食後に口をすすぐよう促している」など。
このように、虫歯予防を全く行っていないわけではないことを伝えると、保護者の方も理解してくれます。
しかし、それでも納得してもらえないときには、園長や主任を交えて話し合う必要があるでしょう。
ほかの保護者の噂や悪口
子どもたちに関すること以外にも、意外なところで保育士さんがトラブルに巻き込まれてしまうケースがあります。それは保護者同士のコミュニティ、いわゆる“ ママ友 ”。『挨拶程度の仲』もあれば、『家族ぐるみの付き合いをする仲』と、人によってママ友との関わり方は違います。ですが、なかには「〇〇ちゃんのママのここが嫌い!」「〇〇くんのお家って~」と不満や噂を話してしまう保護者も少なからずいます。送迎時の保護者対応の際に、会話の流れで自然と噂話や悪口を耳にしてしまった。こんなとき、保育士さんはどう返事をしたら良いか迷いますよね。【対応策】噂話や悪口を話す保護者に対しては、「本当ですか?」「えー、でも」といった言葉は、自分の意見を否定されたと感じてしまい、今後の関係性に影響が出てしまいかねません。逆に「そうだと思った!」「うんうん」といった肯定的な相槌は、相手の話を助長してしまい、より事態を悪化させてしまう可能性があるので避けるのがベター。あくまで聞き役に徹することが大切
です。「知らなかった」「そうなんですか~」と話を受け流すことがポイント。興味のある話題でも、トラブルのもととなりそうな話題には、なるべく関わらないことが得策
です。 SNSや個別での連絡
近年、身近な存在となっているInstagramやFacebook、TwitterといったSNSですが、情報を発信するうえでは注意が必要です。個人の情報は特定されやすく、うっかり載せてしまうとアカウントが簡単にばれてしまう可能性があります。また、「個人の名前を出さなければ大丈夫」と軽い気持ちで子どもたちの情報 や園の関係者に関する情報を投稿してしまうと、後々トラブルの原因になることも…。ほかにも、保育士さんは保護者から個別で連絡先を聞かれることも少なくないそうです。保護者から強引に連絡先を聞かれたら、どう対応したら良いか迷ってしまいますよね。【対応策】SNSについて自身の名前や生年月日、出身地、学歴などの個人情報や写真、子どもたちの名前やその子の特徴などは特定されやすいので注意しましょう。「公開範囲を限定しているので大丈夫」という甘い考えではいけません。どこから情報が漏れてしまうかわからない以上、不用意な投稿は控える
のが良いです。また、LINEやメールといった連絡先の交換は、園で禁止されているということをきちんと説明し、丁重に断りましょう。 こんなことで!?変わったクレームやトラブル
そのほかにも、些細なきっかけや意外なところで保護者からクレームが飛び出してくることがあります。
例えば、
「あの子には優しくしてるのに、うちの子にはしてくれない!」と言われた。
「トイレトレーニングを園でやってほしい」としつけを任された。
外遊びやプールで汚れた衣類を園で洗濯してほしいと頼まれた。
遠足などの集合写真に自分の子どもが真ん中に写っていないから、やり直してほしいと言われた。
服に名前の明記が無かったので書いたら、ブランドの高い服だから書かないで!と怒られた。
といったように、普段から保育士さんが気をつけていても予期せぬところからトラブルに発展してしまうことがあります。「できること」と「できないこと」を保護者にきちんと説明し納得してもらうことが大切です。その際にもやはり、園長またはクラス主任への相談も忘れずに行いましょう。
保護者と良い関係を築くためのポイント
では、保護者と良い関係を築くためには日ごろからどのような接し方をすることが大切なのでしょうか。いくつかポイントをご紹介します。
挨拶と正しい言葉遣い
非常に基本的なことですが、いつでも明るく挨拶をする
ことはとても重要。子どもの送り迎えの際はもちろん、園内ですれ違うときや玄関で会ったときなど、「おはようございます」「いってらっしゃい」「おかえりなさい」など、一言で挨拶をしましょう。また、言葉遣いも気をつけるポイントです。友だちに接する言葉遣いは、人によっては不快に感じることもあります。仲が良く親しみやすい保護者相手だと、気が緩んでしまいそうですが、保護者の立場を考え、言葉遣いには気をつける
ようにしましょう。 積極的なコミュニケーション
保護者にとって重要なことは「保育士さんが園内での子どもの様子をいかに把握できるか」ということ。普段、園内での活動を見ることができない保護者にとって、子どもを預ける時間は不安なはずです。そのため、お迎えに行った際に保護者の方と積極的にコミュニケーション
を取りましょう。「〇〇ちゃん、今日こんなことができました」「〇〇くん、泣かずに過ごせましたよ」といった報告は、保護者にとっても嬉しいことですし、保育士さんが自分の子どもを気にかけてくれているという安心感を得られます。送迎の時間帯は、なかなか会話に時間をさくことが難しいと思いますが、一言、二言でも構わないので、保護者の心配や不安を少しでも取り除いてあげられるようにコミュニケーションをとりましょう。 子どもとの信頼関係
保護者は、保育士さんがいかに「子どもとの関係性
」を重視しているかということを見ています。普段、園での活動の様子を見ることができない保護者にとって担任の先生はどんな人なのか気になるところ。連絡帳や送迎時の会話だけではわかりにくい部分は、子どもたちの反応を見れば一目瞭然です。「今日、〇〇先生が絵本読んでくれた」「〇〇先生は面白いから大好き!」といった話を聞くことで、保護者は安心して先生に子どもを預けることができます。 保護者の気持ちに寄り添う
子どもだけでなく、保護者の気持ちに寄り添う
ことも大切です。お迎えの際に「お仕事お疲れ様です」「最近どうですか?」など一言声をかけるだけで、気持ちが救われる保護者も多くいるはず。「じつは話がしたかったけれど、なかなか話し出せなかった」という方も、中にはいらっしゃると思うので、保育士さんが保護者に寄り添っていくことは大切です。とはいえ、人によってはあまり自分のことを聞かれたくないという方もいるので、適度な距離を保ちながら接する
ようにしましょう。 保護者の子育てをサポートする姿勢
世間では、『魔の2歳児』『悪魔の3歳児』『天使の4歳児』といわれるように、月齢によって子どもたちの成長に大きく変化があらわれます。それに合わせて子育てのやり方にも変化が必要です。とくに、まだ一人目の子どもを育てている新米ママさんにとって始めての子育ては苦難の連続です。そんなとき、保護者の子育てをサポートしてくれる保育士さんは非常に心強い存在。もし保護者が子育てで悩みを抱えているときは、まず話をしっかり聞いて共感する
ことが大切です。そして「園ではこうやって子どもたちに教えてますよ」「〇〇ちゃんはマイペースな性格なので、こうやってトレーニングしてみてはどうでしょう」といった園での経験を活かしたアドバイスを心がけてみましょう。 保護者対応に正解はない!対応策をしっかり立てておこう!
『保護者対応』は、保育士さんなら誰もが一度は経験する業務のひとつ。正しい答えというものはなく、その都度園が用意したマニュアルを見たり、失敗したとしてもその経験を活かして対応していかなければなりません。保護者の受け取り方によってトラブルに発展することもありますし、保育士さんの話し方、態度、印象によって状況が良くもなれば悪くもなります。まずは、トラブルが起きないためにも、正しい言葉遣いとマナーを身につけましょう。
そしてなにより、『保護者対応』で悩んでしまっていることを、先輩保育士や園長、クラス主任に相談することが大切
です。周りの人に相談しアドバイスをもらい、そして次に活かしていきましょう。何事も経験ですので、焦らずひとつずつ丁寧に対処
してくださいね。